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番外編 華麗なる誕生日計画~倉科編~

【 華麗なる誕生日計画~倉科編~ 】 もうすぐ、倉科の誕生日だ。 何をプレゼントしたら喜ぶだろうか、雛森はそんな悩みを抱えていた。 (つっ、付き合ってるんだし・・・・・・こっ、こここっ、恋人なんだからっ!) 直接何が欲しいのか本人に聞いてみるのもありだろう。 なので、即実行に移した。 「誕生日?」 何か欲しいものはあるか、それとも何かして欲しい事があるか、そう聞いてみた。 「もうすぐ倉科の誕生日だろ?遠慮せずに言ってみろよ?何でもいいから」 あまり金額の高いモノを請求されたら困るけど・・・・・・いや、なんとか頑張って手に入れてみせるけど。 今は亡き叔父の恭介は顔が広く、いろいろな知り合いを雛森にも紹介してくれていたから、すべての人脈を駆使して入手して見せるから。 「なんでもいいのかぁ・・・・・・なら」 そうしたら、倉科はにっこり笑って雛森の瞳を覗き込んだ。 「ベタな感じがいいなぁ」 ベタな感じがいいとは、それってどういう意味なのかと聞ける雰囲気ではなさそうで、ただ、そうかと曖昧な笑顔で頷いた。 倉科はただニコニコと・・・・・・意味深な笑みを浮かべていて、何かを期待しているのは分かった。 それが何かは分からなかったが。 そんなやり取りがあった数日後・・・・・・というか、倉科の誕生日当日。 探偵事務所の、雛森の机の上に、少女漫画が山積みにされていた。 「・・・・・・えっと?」 依頼人に提出する書類関係は綺麗に整理整頓され、端っこに寄せられている。 1巻完結のものもあれば、続き物だろうものもあるが、巻数はバラバラ。 誰が置いて行ったのかは分からないが、中身をパラパラ捲って・・・・・・なんとなく想像がついた。 全部の巻に共通しているストーリーが、誕生日モノだったから・・・・・・ つまり・・・・・・これを置いて行ったのは・・・・・・ 「あ、それ、さっき倉科くんが置いていったよ?」 想像していた通りの答えを要がくれた。 「それから、その倉科くんから伝言。それ、午前中に全部読むようにって」 つまり、この中に倉科が誕生日に欲しいもの、もしくは、やって欲しいことのヒントがあるということだ。 とりあえず、一番手前のを一冊取って、最近事務所の一角に新設した畳の上に横になった。 パラパラと捲って・・・・・・捲って、次のページに掛けて指先が震えて・・・・・・バシッと壁に向かって投げ付ける。 今見たものは気のせい・・・・・・そう自分に言い聞かせて、次いってみよう! 絵的に普通そうなもの、清楚可憐なお嬢様タイプが表紙を飾っているもの・・・・・・パラパラと捲って・・・・・・ 「・・・・・・こんなのって」 更に次の漫画を手にして、ページを捲って・・・・・・ 他のも取ってみてページを捲り・・・・・・漫画を持つ手が、いや、全身が震えた。 「・・・・・・倉科ぁ」 どれもこれも・・・・・・・・・・・・エロい。 今時の少女漫画って、あぁなのか? お譲様方、そんな簡単に身も心も捧げていいのか? 目をハートにして、イケメンな男に口説かれて、あんなことや、こんなことをされて・・・・・・悦んで? 「・・・・・・マジかよ」 顔が熱い。 (俺に漫画と同じようなことを・・・・・・あんなことしろってのかよ・・・・・・) チラッと壁掛け時計に視線を飛ばす。 啓太と倉科は大学の講義に出掛けている。 そして、これから雛森は要と一緒に駅前でビラ配りの仕事が待っている。 (なんか、これを回避する方法はねぇのか?) 結局内容をしっかり頭に叩き込むどころではなくなり、漫画を全て倉科の机に返して・・・・・・ 正午を少し回った頃、ビラ配りを終えて事務所に帰ってきた。 なんだか、いつも以上に疲れた気がする。 (それもこれも・・・・・・全部倉科のせい・・・・・・) ぐったりと重い体を引きずって事務所前に辿り着き、ガチャッと扉を開けて・・・・・・ 「ん?」 雛森の机の上に、段ボール箱が置いてあった。 出掛ける前には無かったモノだ。 (ダンボールの上に、手紙?) 雛森由貴様と書かれた封筒を裏返してみると、差出人の名前・・・・・・ 「倉科?」 中には便箋が一枚。 「用意したものを使って?」 嫌な予感しかしない。 急いでダンボールの封印を・・・・・・ガムテープを一気に剥がして・・・・・・ 「・・・・・・マジで?」 中身をごそごそと漁っていたら・・・・・・ 「手伝おうか?」 背後からぽんっと肩を叩かれて飛び上がった。 「か、甲斐っ、さん!」 片手にワインボトルを持った甲斐が、ダンボールの中に手を入れた。 「1人じゃ大変だろうから手伝ってやれと言われたんだよ。まぁ、すぐに退散するけどね?」 言ってる意味が解らない。 「倉科くんも用が済んだから、今こっちに向かってるって・・・・・・ほら、ちゃっちゃと用意しよ?」 電話の向こう側、倉科の声がものすごく明るく弾んでいたらしい。 「ちょっと待って甲斐さん!俺やるなんて言ってないです!」 ワインボトルを大事そうにテーブルに置いて、ダンボールを畳スペースの方に移動する。 ダンボールの中から蛍光ピンクの、部屋の明かりに反射してピカピカに光るリボンを取り出して・・・・・・ 「往生際が悪いよ、雛森くん」 じりじりと後ずさり、雛森の背中が壁にくっついた。 事務所から脱出できる唯一の扉は、甲斐の向こう側だ。 「何でもするって言ったんでしょ?」 何でも・・・・・・する? そんなこと言っただろうか? 混乱する頭では、自分が倉科に対してなんと言ったのか思い出せない。 「・・・・・・言ってねぇ!そんなこと、絶対言ってねぇもん!!」 ぶんぶんっと首を左右に振るが・・・・・・ 「大人しくしないとキスするよ?」 なんで! (なんで、お前が俺にキスしようとするんだよ!!!) 「ちょっ、甲斐さっ!!!」 あれよあれよと言う間に身包み剥がされて・・・・・・さすがに上半身だけだが。 蛍光ピンクのピカピカリボンが身体に巻きついていく・・・・・・ 「これ、僕からのオプションね?」 カシャン・・・・・・ 「なんで手錠なんかいるんですかっ!」 (っつうか、なんで手錠なんか持ってんだよ!!) 「キスするよ?」 ぐっ・・・・・・と押し黙る。 「倉科くんが持ち帰りやすくしないといけないし・・・・・・リボンの大きさはちょっと控えめで・・・・・・でも、雛森くんが多少動きづらそうにならないとなぁ」 ぶつぶつ独り言を言いながら、甲斐の手は忙しく動いている。 「あ、雛森くん、ダンボールの底に台本あったよ」 (分厚っ!!!でもって重っ!!) 恐る恐るページを捲って・・・・・・見えた一行目。 「・・・・・・ヤダ」 一気に涙目になった。 「・・・・・・こんなこと言えねぇ」 恥ずかしすぎる。 「雛森くん、顔真っ赤で可愛いけど諦めて」 コツコツと足音が近づいてきた気がする・・・・・・ 一つの足音が・・・・・・・・・・・・ゆっくりと近づいてくる。 ノックと共に、ガチャッと扉が開いて・・・・・・ 「ユキ、用意できたか?」 顔を覗かせたのは、もちろん倉科だった。 「なんだ、まだ途中かよ」 しょうがねぇなぁっと倉科の手が伸びてくる。 「充、あとは俺がやるから」 「はいはい・・・・・・あ、それ僕からの誕生日祝いのワイン」 あぁ・・・・・・甲斐が行ってしまう。 あんなのでも、今はいてくれた方がいい。 2人っきりになったら、どうしたらいいのだろう? 上半身裸の上に蛍光ピンクのリボンを巻きつけた男が、モデル並みにカッコいい男を相手に・・・・・・・どうしろと言うのだ? 「雛森くん、検討を祈る!」 じゃぁね、と扉の向こう側へ・・・・・・甲斐が行ってしまった。 「ユキ、なんで泣きそうなの?充に何かされたのか?」 「違うわっ!!」 倉科の指先が雛森の頬に触れた。 「完成した姿も見てみたかったけど・・・・・・この途中ってものいいな?」 首筋を撫でられて、ぞわっとした。 「倉科ぁ」 露出度の高い状態で事務所からは出られない。 かと言って、このままココにいても啓太や要がいつ戻ってくるかも分からない。 いや、ひょっとしたら駅前でバラ撒いたビラの効果で客が現れるかもしれない。 一刻も早く、この状況を打破しなければならない。 「大丈夫だよ、誰にもユキのこんな姿見せたくねぇもん・・・・・・俺だけのだから」 ぎゅっと抱き締めてくれて・・・・・・いやいや、騙されてはいけない。 さっきまで甲斐がいましたよ? しかも、甲斐が準備を手伝っていましたよ? 「続きは帰ってから・・・・・・ゆっくり、じっくり・・・・・・まったり・・・・・・」 それも、ちょっと怖いけど・・・・・・ 「だから言って?」 倉科が今望むのは、きっとあの台詞のことだろうと雛森には見当がついている。 今一番雛森に言ってほしい言葉・・・・・・ 「倉科・・・・・・あの、誕生日おめでとう」 ここまでは普通・・・・・・ 「うん」 倉科が嬉しそうに笑うから、思わず雛森も嬉しそうに笑顔を作った。 「それから?」 その先・・・・・・が・・・・・・問題だ。 瞬時に雛森の笑顔が固まる。 「あのさ・・・・・・あの・・・・・・プレゼント、なんだ・・・・・・けど・・・・・・」 顔なんて直視できない。 雛森は倉科の胸板に顔を埋めた。 なのに、倉科は雛森の頬を両手で包み込んで顔を上げさせたもんだから、一気に涙が滲んできて・・・・・・ いや、ぼやけてちょうど良いのかな? (って、拭うなっ!!) 拭う? いや、違う・・・・・・今の感触は舐めた! 「ユキ、顔真っ赤・・・・・・可愛い」 ちゅっ・・・・・・ 「言って、ユキ」 触れるだけのキスをして・・・・・・台詞の先を促され・・・・・・雛森は倉科の首に抱きついた。 これなら、倉科も文句ないだろうと。 雛森も、この体勢なら言えそうだから。 「お、俺が・・・・・・プレゼント・・・・・・で、いい?」 倉科の耳元で囁いて・・・・・・ 「俺の全部をもらって、ほし・・・・・・いんだ・・・・・・倉科」 直後・・・・・・ バタンッと大きな音を立てて勢いよく扉が開いた。 「あ、そうそう、忘れてたんだけどね!」 顔を覗かせたのは甲斐だった。 「2日後、僕の誕生日だから」 ニッコリと笑顔で、目の前で抱き合ったままの2人に・・・・・・ 「楽しみにしててね」 じゃっ、とウインクを一つ、扉の向こう側へ甲斐の姿が消える。 残された2人はお互い顔を見合わせた。 「楽しみに・・・・・・してて、ね?」 楽しみにしてる、ではなく・・・・・・楽しみにしててね? To be continued・・・

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