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第4話・初日・3
「それでは、お仕事に関すること、ここでの生活についてをご説明いたします」
暗号の意味がわからず闇に閉じこもったみんなを、毒島さんが連れ戻してくれた。
「朝食は七時半、九時より蔵で作業していただき――」
毒島さんに聞いたとおりに、頭の中でスケジュール帳を作ってみた。
七時半 朝食
九時 作業
十時半 お茶休憩
十二時 昼食、昼休み
十三時 作業
十五時 お茶休憩
十七時 作業終了、後片付け、風呂
十九時 夕食
自由時間(蔵以外なら屋敷内どこにいてもいい)
二十三時 消灯
なかなか規則正しい生活だな。
「各自個室をご用意いたしております。この隣の部屋から四つです。ご覧のとおり純和風で鍵をかけられないふすまで、わたくしを始め弟子も使用人も男性ですので、アルバイトの方は男性のみとさせていただきました」
なるほど、力仕事があるからって訳じゃないのか。
「食事代等、生活費は一切こちらもちです。下着以外の作業着や寝間着などは、全て無償でお貸しいたします。なお、筆記具やメモ用紙などもお貸しいたしますが、秘密厳守でございますので、お帰りの際にこの屋敷から持ち出すことは禁じます」
ほかに新聞や雑誌などもあり、生活に必要なアメニティは全て貸してくれるそうだ。
「そのため、作業中に給料は支給いたしませんが、作業終了後にお一人様十万円をお支払いいたします」
何もない田舎で近くにコンビニや自販機すらも無く、スーパーへは車でないと行けないから、お金を持っていたところで使い途が無いのだ。
いったい何日かかるのだろうか。十万というのは安いのか高いのか、全く検討がつかない。
「それとは別に、家宝を見つけていただいた方には、百万円の報酬を差し上げます。四人全員で見つけてくださった場合、四人で割ってお一人二十五万、お一人でしたら百万円をお渡しいたします」
俺は目を見開いた。いや、ほかの三人もそうだろう。俺たちは競争だ。協力もあるが、報酬が減る。俺としては競争でギスギスするより、二十五万でもありがたいから協力したい。
ほかの皆はどうだろう。
「ここまでで何か質問はございますか?」
「はーい」
真っ先に挙手したのは、茶髪ピアス。
「なんか、凄い歴史ある書物とかよくわからないけど、全くのど素人でもできますかぁ?」
毒島さんは、こういう若者でも抵抗はないのか、ニッコリ笑って答える。
「ご心配なく。表題などである程度仕分けはできると思います。専門家や学者などに依頼すれば、それこそうちには国宝級の物がたくさんありますからね。やれ売ってくれ、やれ研究させろだのとうるさいですから。素人さんの方が助かるのですよ。それに家宝に関しましては、発見されて博物館の開館前に、早々にマスコミなどに報じられては困りますからね」
それなら俺でも安心だ。けど、ミミズがのたくったような字は読めない。どうやってジャンル毎に仕分けするのだろう。
「はい」
次に手を挙げたのは、太っちょの男。
「外部と連絡できないって…。携帯やパソコンは使えないんですか?」
「はい。作業が全て終了するまで、携帯電話もパソコンも禁止させていただきます。仮に連絡をせずとも記録を残されては、こちらとしては不都合ですから」
「ええーっ?! 今進めてるネトゲがあるのに…」
「もちろん、当家に滞在中は携帯電話の料金、パソコンのプロバイダ料金、家賃や保険、年金、月額制のゲームなどお支払い期限が来ましたら、わたくしが代理でお支払いいたします」
それは助かる。俺はまだ親元にいるから家賃はいらないけど、携帯電話を止められたりしたら大変だ。
だが太っちょは、イベントがどうのこうのとブツクサ言っている。
「全てが終わるまで、ご本人の急病やお身内様に何かございました場合を除き、外出禁止です。もしもこの条件をお飲みいただけないようでしたら、明日の朝、蔵に入るまでにご辞退なさってくださって結構です」
蔵に入るまで?
「蔵に保管されている物を、博物館の開館までに外部にもらされては困るのです。ですから明日、蔵に入った時点で契約完了ということで、作業前に契約書を書いていただきます」
条件が意外と厳しいな…。でも仕方がない。俺は当面の間、仕事ができればいいんだ。
その後は毒島さんに案内され、部屋割りをする。
さっきの古銭が飾られていた部屋の隣が、眼鏡男。その隣が俺、その隣が太っちょ、一番奥が茶髪ピアス。奥の突き当たりはトイレになっている。
「では皆様、下着以外のお荷物は預からせていただきます」
“ええーっ?!”と、太っちょと茶髪ピアスが大きなバッグを体の前で抱えた。
「だって、服とかフレグランスとかコンタクトの洗浄液とかいるっしょ?!」
「絶対何も記録しないから、ゲームだけはさせて!」
衣類は全て貸与、石鹸やシャンプーなどは高級品を使っているから、体臭の心配はいりません。
ゲーム機にもインターネット機能はありますので、念のために預かります。(ってことを毒島さんが知っていたのは驚きだ)娯楽ならテレビ、漫画雑誌や囲碁、将棋といったものがあります。
と、毒島さんは譲らない。俺も眼鏡も、携帯電話や着替えなどが没収された。服まで取られたのは、万が一服の間にでも何か隠し持っていたりすると困るから、だそうだ。ただし、財布などの貴重品やキーケース、眼鏡ケースや眼鏡拭き、コンタクトレンズのケア用品は免除された。
…まあ、しばらくの間、世間と隔離された生活ってのも…。
いいんだろうか?
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