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第5話・初日・4
部屋割りの後は、屋敷内を案内された。風呂は、旅館みたいな大きな檜風呂に、大理石の床。脱衣所には冷蔵庫があり、ミネラルウォーターや缶ジュース、缶コーヒーがたくさん入っていて、風呂上り以外でも飲み放題だ。冷蔵庫の上には油性ペンがある。飲みかけの物には自分の名前を書いて取っておく、そのためだそうだ。
唯一、テレビがある部屋の応接間。ここはほかと違って、レトロな洋風。大正時代みたいな感じかな。大きな柱時計と、猫足のテーブルにふっかふかの布張りソファー。全体的に飴色の、落ち着いた色調だ。テレビは薄型大画面。録画ができる機器は無いから、リアルタイムでしか見られないけど。
テレビの横のマガジンラックには、新聞と漫画雑誌が数冊。ほかの人の迷惑にならないよう、新聞や雑誌は持ち出し禁止だそうだ。
応接間を出ると、次は台所。坊主頭の四十代ぐらいのおじさんが、頭に鉢巻きをして料理していた。何やらいい匂いがする。ゴボウや鶏肉を煮た匂い…筑前煮だろうか。台所はどこにでもあるような、普通のタイプ。けど、食洗機とかは無いものの、設備のいいシステムキッチンだ。調理師としては使ってみたくなる。
「おぉい、源 ! アルバイトの方々に紹介するぞ」
源と呼ばれたおじさんが振り向いた。肩幅が広くて肌が浅黒く、がっしりとした体型で、漁師さんっぽい。なんかこう、大きな魚をさばいてそうな。
毒島さんが振り向いた。
「ああ、そういえば皆様の自己紹介もまだでしたね」
そうだった。俺たちはまだ、互いに名前も知らない。まるでオフ会で初めて会う連中みたいだな。
坊主頭のおじさんは、気をつけをして九十度のお辞儀をした。
「あっしは、牧田源司 と申しやす。“源”と呼んでくだせぇ。ここでは、料理と洗濯を担当しておりやす」
独特の話し方をする源さんは、よく見ると頬に切り傷の跡があるんだけど、海でサメと格闘したのかな――って、源さんは漁師じゃなかった。
「では皆様、お一人ずつ自己紹介をどうぞ」
毒島さんにそう振られ、まず隣にいた俺から自己紹介した。
「野崎晃っていいます。二十二歳、調理師…なんですが、なりたてでまだ経験は無いです。高校までサッカーやってました。よろしくお願いします」
頭を下げた。源さんは“よろしくお願いしやす”と言ってくれたけど、後の三人は…茶髪ピアスはうなずいてニコニコしてくれてるけど、眼鏡と太っちょは反応うすっ。
続いて、俺の隣にいる眼鏡。
「馬場勇次 、二十二歳です。K大文学部、来年に大学院進学予定です。古文を研究していて…あ、大学は休学届けを出しました。既に単位は習得しましたので」
すげーっ! 天下のK大で、しかも来年からは大学院かよ! 古文ってことは、難しそうな内容の本でもわかるのかな。強力な助っ人になりそう。
続いて、そのまた隣の太っちょ。
「…米澤千晶 …二十四歳です。趣味パソコンだけど…没収されたから使えないし、強いて言えば歴史強いっす。戦国時代とか」
さっきゲーム云々言ってたから、ゲームで歴史に興味を覚えたんだろう。でも古い書物の中には、この人の得意分野もあるだろうな。
最後は、しんがりの茶髪ピアス。
「ども、巽大介 っす。元ホストの二十五歳。あ、このバイトメンバーじゃオレが一番年上だけど、タメ口でいいよ。“大介”って呼び捨てでいいしさ。仲良くやろうねっ」
ウインクするあたり、ホストっぽいな。社交術に長けてそう。皆をまとめる役になってくれるかな。
きっと、皆と仲良くやっていける。同じ作業をして、同じ釜の飯を食う。サッカー部の合宿を思い出した。部活のノリでやれば、不可能はない! …接点が全く無い俺たちだけど…。
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