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第7話・初日・6

「…僕は高校卒業してから今まで、バイトを点々としてたんだ。でも、ずっと友達もできなかったせいか、人間関係とかうまくいかなくて…働かなくなって一年ぐらいかな」 確かに米澤さんは大人しそうなイメージがあるから、オタクに偏見のある人は苦手かも。でも、うまく言えないけど、米澤さんは悪い人には見えないんだ。 「いや、米っち絶対いい人だからさ、その引っ込み思案何とかすりゃ大丈夫だよ」 大介が明るく言うけど、米澤さんはうつむいてしまった。 「そんなこと…初対面でわかんないだろ」 「わかるよ」 大介はテーブルに肘をついて身を乗り出し、米澤さんの目をじっと見る。これはもしかして、ホストの技法? 「米っち、食べ方に品があるからさ。きれいな食べ方する人に、悪い人はいない」 そうだ。米澤さんは箸の持ち方がきれいで、馬場くんもそうだけど、マナーが美しい。だから印象がよかったんだ。 大介は人のいいところを、きちんと見ているんだ。ホストってあまりいい印象じゃなかったけど、大介を見るとそんなの偏見だったって思う。 「あ…ありがと…、うちは…父親が厳しくて」 照れながらお茶を飲み、米澤さんがぽつりとつぶやく。 そんなふうに、和やかに食事の時間は終わった。 明日からは夕食前に風呂だが(汗をかいたり埃がついたりするから)、今日は食事の後に風呂だ。 毒島さんが、全員に色違いのタオルと歯ブラシを配った。これで自分専用のがわかるから。さすが毒島さん。 風呂に行く前に、馬場くんが毒島さんに申し出た。 「あの…せっかくですから、弥勒院さんにご挨拶だけでもしたいのですが…。お加減はそれほどお悪いのですか?」 毒島さんがまた、寂しそうな表情になる。 「話しかけたところで、応答ができません。それに、旦那様は夜八時にはお休みになられますので」 そうですか、と馬場くんは残念そうにする。俺も弥勒院さんに会ってみたかった。これから何日になるかわからないけど、お世話になるんだから。 「明日の作業前に、旦那様の弟子の英吉に紹介します。今日は寺の曼荼羅図の修復に出かけておりまして、ご住職にご馳走になるとかで遅くなりますから」 確か先代の当主が古本業を廃業した後、古書や書画の修復師をしていたと言ってたな。弟子ってことは、弥勒院さんのお弟子さんで、同じく修復師なんだな。 お楽しみの檜風呂! 四人で横一列に並び、大きな湯船につかる。まるで銭湯か温泉だ。たった四人しか住んでないのは、もったいない。 「うわ~…。湯船につかるの、久しぶりぃ」 頭に乗せたタオルをひょいと手に取り、顔の汗を拭く大介は、枕営業でのラブホテル以来の湯船だそうだ。 「なんかこう…裸の付き合い、みたいな感じかな」 バシャバシャッとしぶきを上げて、大介がみんなの正面に座った。 「このバイトだけの付き合いなんて、もったいなくね? せっかくだからさ、帰りに連絡先交換しようぜ」 大介の案に、俺も賛成する。 「いいね~」 携帯は毒島さんに預かってもらっているから、帰るときに返してもらえば、皆の連絡先を交換できる。 宝探しも、全員で協力できる。仲良く百万円を山分けして二十五万、いつか四人で旅行にでも行けたらいいな。

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