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第14話・四日目・2

「暗号は解けそうかな?」  ニュースを見にきた英吉さんは、テレビをつけてソファーに座った。  馬場くんが謎の紙から顔を上げて、眼鏡のブリッジを指で押し上げた。 「いえ、全く…。英吉さんは、弥勒院さんから何か聞いてませんか?」  腕を組んで、英吉さんは考えこむ。 「うーん…。家宝の存在は、先生から聞いていたけどね。先代から、日本中が震撼するほどの宝だとか聞いていらしたそうだよ」  考えこむ英吉さんに、馬場くんは質問を続ける。 「弥勒院さんは、なぜその家宝を出して蔵に保管しなかったのでしょう。隠し場所を知っているなら、いずれこの家が博物館になるから、あらかじめ出しておくとか、英吉さんや毒島さんにありかを話すでしょう?」 「さあ…。そう言われればそうかもしれないけど、先生はまさかご自分が認知症になるとは思ってもみないだろうし、いつでも必要なときに出せる、そう思われたんじゃないかな」  真偽はわからない。けど、弥勒院さんをよく知る英吉さんの答えが、一番近いのかもしれない。 「あ、あの…話は変わりますが…」  米澤さんが遠慮がちに、英吉さんに尋ねた。 「羊皮紙の本、修復の具合はどうですか?」 「うん、まあまあ進んでるよ。…って言っても、修復不可能な部分もあるからね。まあ、展示だけはできる程度、ってとこかな」  ぶつくさ何かをつぶやく声が聞こえると思ったら、馬場くんが何かをつぶやきながら、フランス窓に向かっている。耳をすませて聞いてみると、“三日月”“鏡に映る”“左右対象”“杯”と言っている。  フランス窓の外にある下駄をつっかけ外に出ると、空と池を交互に見た。そしていきなり、“あーっ!”と大声を出した。  大変! 考え過ぎのあまり、馬場くんが奇行に走った!  急いで部屋に戻ってきた馬場くんは、息を切らしている。 「わかったかもしれないぞ、最初の暗号!」 “何だって?!”と口々に叫ぶ俺たちを手招きし、馬場くんはまた外に出た。俺たちも下駄を履いて庭に出る。 「最初の“まゆづきよ”は、新月や満月でなければ、半月でも十六夜でもいいんだ。多分、音の響きがいいため、眉月を選んだんだろう。もう一つ、眉月が都合がいい理由がある」  どういうこと? そんな適当な暗号なの? 「“さかづきのぞく”は、杯ではなく、“さかさづき”、つまり逆さまの月じゃないだろうか」  馬場くん曰わく、あの暗号はこの池を差していて、“逆さまに月が見える”という意味で、半月や十六夜よりもわかりやすい眉月――三日月の夜を選んだのではないか、ということだ。  四人で池を覗いた。雨も風も無い今、池には月が映っている。空に出ている三日月だが、当然反対になっている。 「へえ…なるほど」  と、英吉さんが馬場くんみたいに銀縁眼鏡のブリッジを上げて感心する。 「でかした馬場ちゃん! さっすがぁ」  大介が馬場くんの背中を叩く。 「いや、確信は無いんだけど…。あの羊皮紙の本、あれがヒントになって」  あの本は米澤さんによると、鏡を使って化かす魔物を、剣士が倒す昔話らしい。本物の鏡は景色が左右対称に映るけど、魔物が隠れている偽物の鏡は、魔物が作り上げた虚構の世界が映っていて、月が左右対称になっていなかった。だから剣士は魔物のいる鏡を突き止め、倒したんだ。 「けど、この池に何かあるかは、探してみないとわからない」  明かりは電気が通った石灯篭と、応接間の照明だけ。暗くてよくわからない。 「じゃあさ、日曜日は作業が無いから、その日に皆でやらね? オレ、毒島さんに頼んでみるし」 「ああ、そうだな」  大介と馬場くんがうなずき合う。俺もなんだか、テンションが上ってきたぞ! 「そうだ! せっかくだから、日曜日に池の掃除とか草むしりとかしない? どうせ丸一日暇なんだし」  俺の提案に、皆がうなずいてくれた。仕事で来ているとはいえ、お世話になってるんだからな。これぐらいのことは手伝わないと。  そうだ、日曜日には源さんの手伝いもしてみよう。調理師として知識は学んだけど、家庭料理ならではのコツとかがあると思うんだ。さっそく、日曜日から週一で源さんに弟子入りだ。

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