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第33話・十一日目・4
源さんが作ってくれた夕食のいい匂いが漂う『古銭の間』で、米澤さんと大介は俺に土下座する。
「ほんっとにゴメン! アキラちゃんとうまくいくように取り持ってくれるって言われてさ…。オレが馬鹿だった」
「僕もごめんなさい…。ゲームのイベントが気になってたし、お金をいっぱいもらえたら課金もたくさんできるとか考えて…皆がこんなに心配してたのを知らないで」
米澤さんに至っては、涙を浮かべている。
「い、いいよ二人とも。何か事件に巻き込まれたとか、物騒なことじゃなくてよかったし。ねえ、馬場くん」
馬場くんは眼鏡のブリッジを指先で押し上げる。
「…全くだ。もしも外部と連絡が取れるなら、俺が警察に電話していたところだ」
そんなキツいことを言うけど、馬場くんも心配だったんだな。でも、もう少し優しい言い方をしてあげないと、二人がいつまでも顔を上げられないじゃないか。
“失礼いたします”と、部屋のふすまが開いた。毒島さんと英吉さんが、廊下に正座している。二人も俺たちに向かって手をついて頭を下げた。
「このたびは、誠に申し訳ございません! 全てはこの英吉のしでかしたことで、わたくしの監督不行き届きでございます。わたくしに全責任がございます…!」
「…本当にすみませんでした。馬鹿なことをしたと、反省しています。毒島さんは関係ありません、全ては僕が…」
四人に土下座されては、こっちが困る。
「そんな…顔を上げてください! 二人が無事だったんで、それだけで充分ですから」
少し顔を上げた毒島さんは、米澤さんと大介に向かって言った。
「報酬は、お約束どおりお支払いいたします。それと、パソコンや携帯電話の件ですが…、書物の内容や家宝に関することをお話しにならなければ、お使いくださって結構ですから」
今度は米澤さんと大介が、毒島さんたちに向かって頭を下げる。
「いえ、約束を破ったオレが悪いんで、もう携帯は没収してください!」
大介の横で、米澤さんも涙まみれに言う。
「僕も…パソコンはもういいです。契約違反ですから、減俸処分でも…何なりと」
何とか丸くおさまって、ひと安心だ。明日からはまた、四人で作業ができる。
だが、家宝はいったいどこにあるんだろうか。また、見つけたとしても壊さずに出す方法は、あるのだろうか。
食事がすんでから、俺たち四人で英吉さんの所に話を聞きに行くことになった。
午後九時ごろだったが、離れの作業場の明かりはついていた。
「英吉さん、お邪魔します」
声をかけて引き戸を開けると、英吉さんは作業台から顔を上げ、“やあ”と微笑んでくれた。
「家宝についてお話を伺いたいんですが、いいですか?」
「ああ、構わないよ。今日の作業はもう終わるところだったから」
英吉さんは俺たちに、冷たい麦茶を出してくれた。
麦茶を一口飲み、馬場くんが尋ねた。
「弥勒院さんから家宝に関するお話を、ほかに聞いていませんか?」
「先生は大切な物、としか話してくれなくてね。それがいったい何なのか…」
蔵の蔵書、絵画、書の額縁、屏風。
ほかには古銭が入った額縁、飾られている壺や皿など。
「皇室から賜ったという銀杯、あれはどうですか?」
「う~ん…、あれも大切にされていたけど…壊すといったって、どう壊すのかわからないから、やっぱり違うと思うなあ」
弥勒院さんが皇室から賜った銀杯よりも、大事にしていたもの…。
「ま、まさか…」
大介が髪をかき上げる。表情は真剣そのものだった。
「大切な物はこの家で、家を解体しないと出ないとか」
はははっ、と英吉さんが笑った。
「それは無いなあ。確かに、博物館にするにはここを多少改装はするけど、壊したりしたら元も子もないからね。だいたい、先代がお一人でそこまで大掛かりなことはしないだろうし」
そりゃそうだろう。
米澤さんが遠慮がちに“あのー”と挙手した。
「災害や戦争などから、代々守り続けてきたんですよね。やっぱり今も火事や台風や地震などにも耐えられる場所にあるとか」
「それだ!」
と、英吉さんが膝を叩いた。
「それなら蔵だよ。あれは昔ながらの土蔵だけど、耐震性に優れている上に、壁は燃えにくいんだ」
家宝が蔵にある可能性が出てきた。後は謎を解くのみ。
“教えのもとに”
まずはそこからだ。また明日から、四人で蔵の作業と謎解きを頑張ろう!
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