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第5話

何を考えていようが朝は来る。 マメすぎる翔が用意した朝ごはんを食べ、お昼ご飯用のお弁当も持ち、僕は家を後にした。 「行ってきます」 火曜日は、翔が先に学校に行っている日。翔とは学部が違うから、授業時間中は離れることができる。 「おはよ侑斗」 だからこそ、この親友とずっといることができるのだけど。 「あぁ、透。昨日大丈夫だったのか?」 急にそう言われドキっとする。 まだ、篠崎のあの言葉……『もし君が翔から逃げたいと思っているなら、ストーカーの正体を柳瀬侑斗には言わないことをオススメするよ』 言うべきか、言わざるべきか。 それについての決着が、まだ自分の中で出ていなかった。 ストーカーが、篠崎が、悪い奴だとは思えない。確かに人に話せば話すほど秘密は秘密でなくなるものだから、あの忠告も当然だろう。でも侑斗なら、僕の話を周りに広めることも無いはずだ。 「透……?」 「昨日、ストーカーに会った」 何より、誰かに話したい。自分1人で抱え込むにはこの話は荷が重すぎる。 篠崎を信じていいのか、それともアイツも嘘を重ねた人間なのか。 一緒に考えてくれる人が欲しかった。 「えっ、それ大丈夫だったのか?何もされてない?」 「大丈夫。悪い人ではないみたいだった。……というか、知り合い」 「知り合い?」 「うん、高校の。翔が生徒会長やってた時の、副会長やってた人。僕自身はあんまり関わりはなかったんだけど」 「それはまた……それで、ストーカーは何の要件で来たんだ?」 何の要件だったのかと問われれば、よく分からない。ただ、念を押して言われたのは。 「翔から逃げないかって言われた」 「逃げる……?」 「自分は僕と翔の関係を知ってるって。だから、逃げたくなったら言えって。……おかしいよね。ストーカーだって分かってるのに、そんなことを言われたら縋りたくなる」 自嘲しながらそう言えば、侑斗が悲しそうな顔をする。申し訳なく感じて、この話はするべきではなかったか……と後悔したその時、侑斗は僕の目を見て言ってくれた。 「俺は、翔もそいつも信じられない。逃げることがそんなに簡単に出来ることなら、俺がとっくに透を逃がしてる」 それを聞いて、やはり信頼できるのは侑斗だけだと思う。それもそうだ。第三者が、そんなに簡単に「兄弟」の縁なんて切れるわけがない。 「ありがとう、侑斗」 「あぁ。なんかあったらまた言えよ。ストーカーは思ってるより怖い奴だったりするからな」 今度会った時は断ろう。願ってもない誘いに心を乱されてしまったけれど、もう大丈夫だ。 侑斗が居てくれるなら、僕はまだ翔と生きていける。 そう決意を新たに過ごした日の、放課後。 「ごめん、今日はすぐにバイト行かなきゃいけないから……なんかあったらすぐ連絡してこいよ!すぐ駆けつけるから!」 「大丈夫だって。きっと昨日の今日では接触してこないよ」 そう思ってロッカー室を開けたのに、その予想は外れたみたいだった。 「昨日はよく寝れた?」 そこに居たのは、昨日も会ったストーカー。驚いたけれど、これはチャンスだとも感じた。 「僕は、あなたの助けは借りないことにします」 そう。ここで、キッパリと縁を切るチャンス。 「なので、もうこういうことはやめてください。写真を撮られるのも……不愉快です」 断られるか、もしかしたら逆ギレされるかもしれない。そんな不安もあったけれど、やはり篠崎はそこまで悪い人ではなかった。 ただし、彼はこの言葉だけで僕を咎めた。 「それは、透君だけで出した結論?」 「いえ……侑斗には話しました」 そう言えば、篠崎は小さく笑う。 「やっぱり、か」

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