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第7話
そして僕は約束を破った。
しかも、翔に連絡をすることさえなく。
気付けば僕は篠崎の家の中に居て、久しぶりにコンビニのおにぎりを食べていた。
「透が俺の家に居るなんて、夢みたいだね」
そう言ってカメラを向けてくる相手に苦笑する。これでは監視されているという点で、翔と対面しているのと同じではないのかと。
「僕を撮っても、いい絵にならないから……」
そう遠回しにやめろと言うけれど、篠崎は笑って「俺の記憶になるだけだから許して」と言う。真っ直ぐな好意は新鮮で、突き放せなくて、不思議と不快感は感じなかった。
「先にお風呂に行っておいで。嫌だったこと全部、流してくるといい」
家主は貴方なんだから。でも、透の方が疲れているだろうから。
そんな攻防を続けること数分。これ以上好意を無下にするのもよくないと感じ、ありがたく先に使わせてもらうことにした。
「服は俺のでいい?」
「……借りられるなら」
そこまで迷惑をかけてしまうのは申し訳ないと感じながらも、服を取りに行くには翔に会わなければならない。そんな勇気なんてあるはずもなくて、この居心地の良さに甘えてしまう。
「はぁ……」
ゆっくりと湯船に浸かって辺りを見渡せば、自分の家でないことが痛感される。
親族以外の家に泊まるなんて初めてで、なんだか悪いことをしている気分になった。
「帰りたくないな……」
ずっとここに居られたら。
もう何も考えずに済むのなら。
そう思うけれど明日は学校で、少なくとも侑斗には会ってしまう。もしかしたら翔だって、なんで帰って来なかったのかの理由を探りに来るかもしれない。
そうなった時に僕は、どんな顔で、どんな言葉で、彼らに答えればいいのだろう。
「休んじゃ、おうかな」
幸いずっと真面目に授業に出ていたため、明日1日休んだくらいでは成績に関わってくることはない。そんな思いが浮かんだけれど、自分の中の真面目な部分が首を振る。
髪を洗い流して、体も温まって、少しだけリフレッシュをした気分になる。
自分とは違う柔軟剤の香りに袖を通してリビングに戻れば、篠崎は嬉しそうに僕を見た。
「うん。よく似合ってる」
立ち上がって近付いてきた彼が目の前で止まる。そしてまた、僕の頭を撫でた。もしかしたらこれは、彼の癖なのかもしれない。
「先に寝てていいよ。寝れなかったらテレビでも見ていてくれればいいから。自由に寛いでて」
「……ありがとう」
その言葉に甘えてソファに沈み込む。僕たちと同じ高校から来ているのだから、彼も1人暮らしなんだろうか。家に帰って、1人だけしかいないという感覚はどんな感じなんだろう。自由なんだろうか。それとも、寂しいのだろうか。
そんなことを考えていた時、急にバイブ音が聞こえ始めた。次いで音の発信源が、篠崎の携帯であることに気付く。
「電話……?」
規則正しく連続で鳴る通知は、メッセージではないだろう。せめて、誰からの電話かだけでも伝えるべきだろうか。
そう思って番号を確かめようとして……背筋が凍った。
「なん、で……」
それは、自分の携帯にもよく届く番号。
むしろ僕が知っているのは、その番号のみ。
何度確かめてもそれは変わらない。……翔だ。
足が止まる。見なかったことにしてしまいたい。翔の声を聞きたくない。
『鳴らないで』そう願って携帯を握りこむ。
それでも、バイブ音は止まらない。
離れているのに近くにいるみたいだ。
この家にいる間でさえも、もしかしたら翔には監視されているかもしれない。
なんで、どうして。僕がここにいることがバレているのだろうか。それとも偶然……?
でないと、侑斗が黒だということが証明されてしまう。いや、でも、要件はまだ分からない。
「透、ちゃんと休めた?」
そう言って篠崎が現れるまで、僕はずっと見えない恐怖に怯えていた。
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