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【1章】1

「おはよう、凛生」 立派な門構えの脇にあるこじんまりとしたドアからまずいつもの使用人が出てきた後、続いて艶がある黒髪が覗く。伏し目がちに鞄を受け取り一言二言言葉を交わし終わったのを見計らって声をかけた。 「優(すぐる)様。おはようございます」 凛生より先に使用人、お手伝い兼凛生の世話人の美智子(みちこ)さんが朗らかに答える。品の良い初老の女性に軽く頭を下げると、凛生の手から当然のように鞄を受け取った。 「凛生様、また優様の手を煩わせて」 言葉と共に八の字になった眉の美智子さんが毎朝恒例の小言を言う。好きでやってるとまた決まった台詞を返し、先に歩き始めた凛生に付いていく。

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