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◇2話◇

ずらり、と建ち並ぶ店の眩い橙色の光―――。 豪華絢爛な着物を身に纏い、笑顔や酔っぱらい顔で浮かれながらそこらを歩く通行人。歩く度にカラン、コロンと下駄の音が幾重にも重なり、まるで音楽を奏でているかのよう―――。 頭がくらくらしそうな程の酒の匂いや、貧困街ではお目にかかる事すらなかった豪華な食事の匂いが鼻と腹を刺激する。握り飯だけでは満足に満たされない腹が悲鳴をあげるかのように、ぐぅぅと鳴った。 すれ違う通行人達の奇異な目が―――針のように突き刺さり、思わず腹を抑えた大和だったがすぐにはっと我にかえり、こんな事をしている場合ではないと思い直した。 【神室屋】へと向かわなければならないのだ。 これから己が働く【神室屋】の禿―――いわゆる付き人である者をこれ以上待たせてしまう訳にはいかない。しかし、【神室屋】の場所さえも分からない大和は地図を片手にさ迷うしかない。 (ど、どうしよう……こんなとこで躓いてしまうなんて……こんな事ならさっきのあの船頭に詳しい場所を聞けば良かった……些細な事で意固地になるのは―――おらの悪い癖だ……っ……こうなりゃ通行人に聞くしか……) と、意を決して周りにひしめく通行人に地図を見せて【神室屋】の場所を尋ねようと一歩踏み出した時―――、 どんっ………… 通行人のうちの誰かが―――大和の体にぶつかり、それと同時に地図が道の上に落ちてしまった。ぐしゃ、ぐしゃと踏まれていく地図の拾うために大和は必死で手を伸ばす。 襤褸を身に纏った自分など気にしない、と言わんばかりに踏まれて土にまみれる【神室屋】の場所を示す地図は大和にとっては生きる糧となる一縷の望み―――。 ひととおり、通行人が過ぎ去った道には土に這いつくばりながら既に文字が判別不能な程にぼろぼろになった地図に手を伸ばす大和と―――一人の美しい男。 女物の着物を身に纏い、首に鈴をつけているその男は無言のまま地図を拾い上げると地に這いつくばったままの大和にすっ、とそれを渡して握らせた。 「おい、鈴女・【蓮華】!!何をぼさっとしてやがる……とっとと逆ノ目郭に戻るぞ!!満月・【菫花魁】が首を長くして待っとるからな」 「…………」 少し離れた場所から聞こえてくる別の男(まるで狸のような親父)の野太い声を聞いた途端に、その見目麗しい鈴女・【蓮華】と呼ばれた男は小刻みに体を一度震わせると、唖然としている大和へにこり、と頬笑んでから頭を優しく撫でてきた。 しかし、とうとう最初から最後まで何も言う事もなく―――すっくと立ち上がった見目麗しい鈴女・【蓮華】と呼ばれた男は通行人の波に飲まれるようにして消え去ってしまうのだった。

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