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◇10話◇

弦月・【水仙花魁】が上衣を完全に脱ぎ終わり肌をさらけ出した途端、大和はあまりの光景に息を飲み唖然としてしまう。 故郷で辺り一面を真っ白に染めてしまう程に降り積もり、季節が巡る度に大和へ憂鬱さを与えていた美しく雪のような肌(背中)を埋め尽くしてしまうくらいに巨大な孔雀の刺青が施されているのだ。 「あんさんも―――普段は衣に隠れているとはいえ、こんな場所に孔雀の刺青を入れるなんて……下品で婬売か花魁やと思ってるんやろ?あんさんの顔は見えなくとも―――その反応で薄々気付いたわ。そやけどな、これはわっちの意思で入れたんやないんよ……大切な人と合意の上で入れたんや……まあ、もう二度とわっちはあの人とは会えんけどな……遠い、遠い所へ行っちまった」 「…………」 背中を向けてぽつり、と呟く弦月・【水仙花魁】の表情は大和からは見えない。そうとはいえ、大和は何となく―――彼は泣いているのではないかと思ってしまう。何故なら、彼の声の調子が所々掠れたり、震えてしまっているからだ。 声の調子だけじゃなく、肩まで上下に震わせている彼の姿を見て弦月・【水仙花魁】が嗚咽を漏らしているのを必死で隠そうとしている事に気付いた大和はゆっくりと足音をたてないように背を向けてる彼の方へ歩み寄る。 「その気持ちは、おらにも分かる。おらも大切な兄と離ればなれになっちまった……だから、大切な人を求めれば求める程に穴があいちまったみてえに、むなしくなるのは―――おらにだって、分かる。だからもう泣くな……泣いたら余計に悲しくなる」 「お……花魁であるわっちにそんな口を利くなんて……随分生意気な新人禿でありんすな。その言葉を聞くだけで大分気が楽になったわ……ありがとうでありんす。目白・【撫子】―――それが、あんさんの新しい名だとさっき旦那さんが言っとったわ。だけど―――わっちと二人きりとなってるときは大和と呼んでもええか?」 「か、構わん……っ……二人きりの時は―――おらも水仙花魁様の事を本名で呼んでもええか?あ、おら……水仙花魁様の本名―――知らんわ」 会話をしている間に夜風に晒され、生ぬるくなってしまった湯に白布を浸けて大和は弦月・【水仙花魁】の背中をお返しに、といわんばかりにやや乱暴な手つきで擦り始める。最初は孔雀の刺青に驚いていた大和だったけれど、見慣れてしまうと美しいとしか感じなくなっていた。 むしろ、背中一面を埋め尽くしてしまう程の彩りな孔雀の刺青よりも―――ちらり、と目に入った弦月・【水仙花魁】の左上腕にある数十個もの切り傷(形状からして刃物でつけられたものだ)の方が気になってしまったのだが、流石に大和は空気を読んでそれには触れずにいた。 これ以上、弦月・【水仙花魁】に説教されるのも―――ましてや、彼の悲しみに歪む顔も見たくはなかったのだ。苦手だとは思いつつ、大切な人が遠い所に行ってしまったという己の境遇と似通った事情を抱えている同情心があるせいかもしれない。

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