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◇12話◇
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新人禿の朝は早い―――。
【旦那さんや女将よりも朝早く起きなければならないのは勿論の事、下っ端と花魁達から見下されている禿達よりも早く起きなければならない。先日、ついうっかり寝すごしてしまった所―――性悪な他の禿達から朝飯を地面に叩きつけられ踏みつけられ、それを食えと怒鳴られ散々虚仮にされたのだ。
それどころか、その日は一日―――飯を出されず、とてもひもじい思いをした。
貧困街の時のようにひもじい思いをするのは二度と御免だったので、それ以降は何とか寝すごすのだけは注意し―――暫くして朝の早起きにもようやく慣れた所だった。
(はよ、身支度して厠の掃除をしないといけんな……薄汚いどぶねずみと周りの禿から虚仮にされ笑われようが―――仕事は、仕事や……それに今日は神室屋に使いに行く日―――久方に陽砂に会える……)
新人禿として逆ノ目郭に仕える大和の仕事は主おして雑用だ。しかも、郭内部の掃除や飯の準備―――それに月に何回か近場にある【神室屋】に文や物品を届けるといった些細で花魁達や花魁達に仕える【上級禿】とは比べ物にならないくらいに地味で退屈な仕事だ。
しかし、大和は新人禿の仕事内容には大して不満など感じなかった。それよりも、むしろそんな仕事に鬱憤が溜まっている性悪な禿達から受ける嫌がらせの方が気が狂ってしまうのではないかと思うくらいに苦痛を感じていた。
それでも、大和は―――【上級禿】の睡蓮や【弦月・水仙花魁】と時々会い互いに励まし合えていたので何とかこの世界で暮らしていけているのだ、と改めて実感し二人に感謝しているのだ。
そして、それは―――何も二人だけでなく陽砂に対しても同じだった。むしろ、たまにしか会えない二人とは違って明らかに会う頻度の多い【神室屋】で働く友の陽砂の方に抱いている感謝の方が大きい。
日々の愚痴をぶつけるのは大和の方が明らかに多いが、陽砂はそんな大和に対して嫌な顔をひとつせず優しく微笑みながら熱心に話を聞いてくれて、時には暖かい手で大和の頭を撫でてくれる。
地味で同じ事の繰り返しでしかない―――まるで味のない砂を噛みしめるかのように退屈で拷問のような日々に暖かい日差しを照らしてくれるのは陽砂の存在あっての事なのだ。
そう思うと、四方八方を海で囲まれ氷のように冷たい風が吹きすさぶ最中での水を使用して手がかじかんでしまう日課の洗濯や―――強烈な臭いを醸し出してる汚らしい厠の掃除も一気に苦痛ではなくなる。
(はよ、陽砂に会いたい……っ……あの笑顔が見たい……)
真っ赤になって震えている手に、はあっと息を吹きかけつつ―――大和は仕事に励み、早く【神室屋】の使いに行く時刻にならないか、と今か今かと待ち続けるのだった。
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