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◇13話◇

【神室屋】に向かう前に大和は身支度を整えるべく、女将さんの部屋へと訪問する。普段は襤褸を纏って仕事に励む下っ端禿でも、【神室屋】にお使いに行く際は流石に襤褸を纏う訳にはいかない。 女将さんや旦那さん曰く【神室屋】は下っ端の新人禿にまで身支度を綺麗に整えさせているらしい。最も、客を取る為の手段としてらしいのだがそれが女将さんや旦那さんは気に食わないのだ。「逆ノ目郭の近場にあり売上もどっこいどっこいの此方としては【神室屋】に負ける訳にはいかないんだ―――だから、仕方なく小綺麗な格好をさせてやるんだから有り難く思いな!!」と夫婦揃って口を酸っぱくしながら言い放っていた。 「ということで―――くれぐれも神室屋に恥を晒す真似はするんじゃないよ!?下っ端の禿とはいえ、あんたはこの逆ノ目郭で働く一員なんやき……いやいや、それにしても―――」 「女将さん……どうしたんです?」 「な、何でもないよ……ほら、白粉が目にはいるやき……きちんと目を瞑ってな!!」 鏡に向かって化粧を施されている大和が、ふいに何かを言おうとしている女将の様子を不思議に思い、目を開けて彼女の顔を見上げようとした途端―――ぱしっと頭を軽く叩かれて説教されてしまった。 こんなやり取りをしていると―――貧困街で暮らしていた時の母だった人の面影を思い出し、思わず目尻に涙が浮かぶ。お金のために捨てられて憎い、憎いと思ってはみても―――やはり、大和にとっての母は彼女一人なのだという事を実感して切ない気持ちに囚われてしまったが「こらっ…………化粧が崩れちまうよ!!柄にも泣いてんじゃないよ全く……あんたは笑顔以外取り柄がないだろうが」とまたしても女将さんに注意されてしまうのだった。 「よし、こんなもんでいいやな……あんた、【目白・薊】に感謝するんよ?その着物も―――元はといえば薊の物だったんやから。薊がお前に着せてみたらどうかって話して来たんやき……なあ?」 「は、はい……っちゃ……」 【目白・薊】と呼ばれた禿には―――見覚えがあると大和は決して良いとはいえない記憶力を駆使して必死で思い出そうとした。確か、水仙花魁と二人きりで行水した時に意地悪な先輩(本当は先輩だとも思いたくないが)禿の側にいた気がする。 「あ、あの……ありがとう……ございます……」 「いいっちゃ……いいっちゃ、気にしなくてもいいんだっちゃよ……それよりも何か困った事があれば気軽においらに話してくれっちゃね……」 にっこり、と微笑みかけてくる【目白・薊】は他の意地悪な先輩禿達とは違うという事を察した大和は出来る限り丁寧にお礼を言うと普段身に纏っている襤褸着物とは比べ物にならないからいに綺麗な桃色の着物を着ているせいで高揚し軽々しい足取りで風呂敷を手に持ちながら【神室屋】へと向かって歩いて行く大和なのだった。

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