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◇14話◇
※ ※ ※
「ごめんください、御用入りに参りました」
両手に風呂敷を抱えつつ、大和は【神室屋】の裏口玄関で中にいる御用訊きの人物へと声をかける。普段であれば、割とすぐに御用訊きが来てくれるのだが___今日は忙しいのか中々来る気配がない。
どうしたものか―――と待ちぼうけを食らってしまっていた大和だったが、まさか勝手に奉公先でもない【神室屋】へと一方的に、ずかずか入っていく訳にもいかず、ただひたすら誰かが来るまで地蔵のように待つしか出来ない。
「申し訳ありません―――お待たせしまして。こちらに、どうぞ……って―――なんでえ、おめえかや」
「あ、ひ……っ……久方ぶりに参りました」
ようやく、店の中から出てきたのは―――大和と陽砂が初めて出会った日に同じく出会った【神室屋】の付き人の男だった。久方ぶりに対面したが、ぼさぼさ頭にやる気のなさそうな態度は初めて出会った日とあまり変わっていない。
「ほれ、何ぼーっとしとるんやき。荷を届けに来とるんやったら……はよ、それ寄越せやな!!陽の奴も―――おめが来るのを首長くして待っとったわ……あっちにおるき、はよ会ってやってや」
「え……っ……で、でも……っ……」
先ほどから、奉公人の男は陽砂の事を【陽の禿】と呼んでいる。おそらく、【神室屋】には【神室屋】の決まりがあっての事だろう。以前から、この男が陽砂の事を【陽の禿】と呼んでいるのを何度も耳にしていた。
陽砂はお仕事中なんじゃないのか、と少し遠慮がちに声をかけようとすると―――【神室屋】の奉公人の男はそれを悟ったかのように黒い歯を剥き出しにしつつ笑うとぽん、ぽんと大和の頭に手を乗せてから撫でてくれた。
「陽の禿は―――今日は非番やき。それに、おめの奉公先の逆ノ目郭にも話はつけとるき――柄にもない遠慮なんかするんじゃねえやな。ほれ、ほれ……」
トンッ……と奉公人の男が大和の体を押した先には―――立派な木(雪が降り積もっていて何のものかは分からない)が植えられており、その真下にはどことなく嬉しそうに微笑んでいる陽砂が立っていた。
「たまには、毒を吐ききるんのも――おめえらにとっちゃ必要な仕事さ―――さあ、おれはおれの仕事に戻るやきな。それと陽砂の事、よろしく頼むやな……」
「は、はい……っ……」
一瞬、何か―――些細な事が胸の中で引っ掛かったものの奉公人の言葉に対して頷いた大和は久方ぶりに会う親友の陽砂の元へと弾むように意気揚々と駆けて行くのだった。
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