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◇16話◇

「なあ、陽砂―――おめえ、何か落としたぞ!?何だ、それ……」 「えっ…………あっ……」 ふと、【神室屋】の中庭から内部に通じてる裏口へと戻ろうと大和が主人に仕える子犬のように彼の後ろにつきつつ歩みを進めていた時のこと___。 小さな何かが陽砂のもとから雪が少しばかり降り積もっている冷たい地面へと落ちたのだ。雪に埋もれてしまって、それが何かまではぱっと見ただけでは分からず好奇心が勝った大和が咄嗟に拾い上げて隠そうとした陽砂を引き止めるようにして尋ねた。 それは___桔梗の花の髪飾りだ。 すると、しまった―――という表情を浮かべながら慌てて桔梗の花の髪飾りを拾い上げ、大事そうに仕舞おうとする陽砂___。 しかし、大和があまりにも興味深そうに己の方を見つめていたから気になったのか陽砂は少し気まずそうに微笑むと、仕舞おうとしていた桔梗の花の髪飾りを大和にも分かりやすい角度で見せてくれた。 僅かに、陽砂の顔が赤く染まっている。 「こ、これな…格別に大切な人から貰ったんや。大和にも―――そういう人、おったりしねえの?」 「えっ…………お、おらの―――格別に大切な人?」 格別に大切な人―――。 その言葉を聞いて、最初は尊敬できる先輩である睡蓮が思い浮かんだ。しかし、すぐに睡蓮の柔らかな笑顔は大和の心と頭から消え去り―――その後、ある人物のぶっきらぼうな笑顔が大和の心を支配する。 苦手だ、苦手だと思っている___【弦月・水仙花魁】の笑顔は睡蓮の笑顔とは違って中々大和の心と頭から消え去ってはくれない。何故なのか、と悶々と悩みつつ陽砂に何と反応すればいいのか分からない大和は―――次に陽砂と会った時に答えてあげようと思いつつ中途半端な陽砂との逢瀬を終わらせて【神室屋】を後にするのだった。 陽砂が永遠に物言えぬ存在となり【神室屋】の古井戸の底から発見された、と付き人から大和が連絡を受けたのは―――その日の夜中の事だった。 昼間とは違って割と容易に【神室屋】に行けないと分かりきっていた大和は―――永遠に陽砂と会えなくなった、という残酷な知らせを聞き半狂乱になりながら襤褸の裾を涙で湿らせるのだった。

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