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◇20話◇

「おい、薄汚い貴子よ___大帝である我子にぶつかるとは……何という不届き者だ!?名を名乗れ。この郭とやらには、無礼な花魁しかおらぬというのか?」 尻もちをついてしまった大和だったが、己を険しい顔で見下ろしてくる人物を目にすると、そのまま慌てて体制を直し――尚且つ、つい土下座までしてしまった。 それは、単に【逆ノ目郭】に来ている客だからというわけではなく、その人物からとても高貴な気を放っていたからだ。ただ立って、己を見下ろしているだけでも普通の客とは何かが違っているのを世間知らずの大和でさえ悟ったのだ。 「も、申し訳ございません。おらの名は、大和といい花魁名は【雲隠れ・大和撫子】といいます……失礼ですが、貴方様は――何方をお探しなのでございますか?」 「致し方ない。我子の名を教えてやらんこともないな。我子は、遠く離れた異国の《婀慈耶》から来た――国を担う大帝の……っ……」 両腕を組み、全身を赤紫色の美しい着物で着飾った大帝とやらが尚も大和を見下ろしながら、年齢もさほど変わらないであろうに――どことなく偉そうな口振りで名を名乗ろうとした時のことだった。しかも、ここにきて――呆然としていた大和は《婀慈耶》から来たという高貴な立場の大帝が郭内にいる誰を探しているのかという事柄について返答をもらっていないことに気付いたのだ。 すると____、 「髏心后帝の尊(ろしんこうていのみこと)様、このような場所で、いったい何をしておられるのでございますか?父上であられる、亞心大帝の尊様からの命を忘れたわけではありませんよね?しかも、このような場で私の弟と共にいるとは__」 つい先ほど、客として唐突に現れただけでなく生き別れとなって随分と経つ弟の大和に対して甘い言葉を告げてくれたのとは打ってかわって、厳しい顔付きをして尚且つ低い声をあらわにした兄である連翹(れんぎょう)が呆然とする二人のすぐ側に立っているのだった。 「智子よ、お主こそ……このような不届き者がいる部屋にて何をしておったのか。よもや、如何わしき事ではあるまいよな?我子は、お主が出てくるのを待っておったのだぞ。それを、このような不届き者と――って……待てい、待てい……智子よ、お主は先刻この不届き者を弟だと言ったか?」 髏心后帝の尊は、怪訝そうな表情を浮かべつつ大和を睨み付ける。だが、元々――大和や連翹に比べて目がきりり、と細長い彼にしてみれば単に目線を向けただけかもしれない。 「その問いかけ、正でございます。ここいる大和は……私の弟。幼き頃に生き別れましたが、今宵ようやく再会の時を迎えました。それはさておき――髏心后帝の尊様は、淫戯の勉学に励むためにこの郭に来られた筈でございましょう?それが何故に今、この場にいらっしゃると聞いているのですが、答えられないのですか?亞心大帝の尊様は、息子である貴方様との御子を授かるために、淫戯が不慣れで不得意な貴方様をこの郭に泣く泣く送ったのでございますよ」 「……っ____!?」 大和は、あっという間に立場が己よりも上である異国の《婀慈耶》を統べる髏心后帝の尊を言い負かせた光景を見て、兄に尊敬の眼差しを向けるのだった。 今の兄には、幼き頃にはまだ顕著でなかった威厳が備わっている____。 しかし、異国から来たという髏心后大帝の尊は先ほどの威勢が嘘かの如く――口をきゅっと結び何か言いたげなのを必死で堪えているように大和の目にうつるのだった。

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