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 休日は基本一人きりで自分のために時間を使う。ジムで汗を流したり、ショッピングに出かけたり、部屋でゆっくりDVDを観たり──。  しかし今週の土曜はどうしても外せない用があった。呼び出されれば何を差し置いても優先して会いにいかなければならない相手。  元妻だ。  週の中頃、元妻から『話がある』とメールが届いており、休日である土曜日を指定したのは広務からだった。  元妻──香子(かこ)と出会ったのは大学に入学したばかりの頃、サークルの飲み会でだった。  香子も広務と同じ一回生で、ゆるふわとした喋り方をする、上等な家庭で育ったお嬢様というのが第一印象だった。しかし香子はその見た目に反して『肉食系女子』だった。  初めての飲み会で酔っ払った広務が翌朝目覚めると、なぜか隣に香子が裸で寝ていた。  ちゃんと女の子と『できる』んだ。  まだ自分のセクシャリティを自覚していなかった広務は内心安堵した。まだ異性に対して恋情を感じたことがなく、実は不安だったのだ。  その頃は異性よりも同性に対して憧れのような気持ちを感じていた。それが恋だかどうかはよくわからなかったし、その感情を深く追求することを避けていた。  でもどうやら自分は女の子と初体験を済ませることができたらしい。香子のことは可愛いと思うし、いい意味でも悪い意味でも女の子らしいと思う。  そして、飲み会の後二人で夜の街に消えた広務達は、サークル公認のカップルに仕立て上げられていた。  まあ、いいか。広務は流されることにした。  大学生になって彼女の一人もいないのは変だし、香子をふってまでつきあいたいと思う相手もいない。  今思い返せば、広務は『バイよりのゲイ』だっのだろう。香子に求められればそれなりに抱くことは出来た。でも恋人に対する義務感みたいな感情で抱いていたように思う。  それに肉食系女子香子はそういう意味でも積極的だった。肉食の香子は自分と正反対のタイプ、つまり草食系男子がお好みで、夜の方も自ら積極的に動くタイプだった。広務はただ横たわっているだけでよかったのだ。

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