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 そんな恋人関係が数ヶ月続いた頃。ある日香子が泣きながら「妊娠した」と言ってきた。 「私、キャリアウーマンになってバリバリ働きたかったのに!でもお腹の子を堕ろすなんて出来ない!葛岡くん、責任とってくれるよね!?」  責任も何も、避妊は全て香子任せだった。安全日だからとか大丈夫だからとか言って、香子は常に主導権を握っていた。  子供を産んで主婦になるより、キャリアウーマンでバリバリ働く方が強《したた》かな香子には似合っている気がした。しかし香子はすっかり子供を産む気でいるようだ。 「産みたいの?」  成人もしてないというのに。子供が子供を産み育てるようなものじゃないか。  でも香子はしっかりと首を縦に振った。  その瞬間、広務は全てを諦めた。これから一生を香子とお腹の子のために生きようと。  恋人を妊娠させてしまった場合、男とは全ての悪の根源のように扱われる生き物らしい。  香子の親に罵られ、広務は両親と共に香子の実家で土下座した。 「香子さんと結婚させてください」  香子の望むセリフを香子の望むように吐く。深々と頭を下げながら、ああ、まじで終わったな、と思った。  大学では逆にお祝いムードで歓迎された。サークル公認のカップルの結婚。二人のためにパーティーまで開いてもらい、香子はまんざらでもなさそうに微笑んでいた。  それが一年も保たず二人は離婚することになった。広務の方から切り出したのだ。

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