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「でもなんで俺……。咲坂 の実家でおじいちゃん達と住む方が良くない……?」
咲坂は香子の旧姓だ。実際、再婚するまで香子と瑛太は咲坂の実家で生活していたはずだ。よく知らない親戚のおじさんみたいな父親より、母親の実家で自分を可愛がってくれている祖父母と暮らす方が瑛太だってストレスフリーだろう。
「それがさぁ、うちのパパ、去年定年しちゃったのね。だから実家の建物は兄夫婦に譲って、パパとママは私と一緒に大阪についていくってはりきっちゃってて」
どんだけーーー!と過去の流行語を叫びそうになった。香子の両親の過保護っぷりは、娘がアラサーになろうとも健在の様子。一人ではまともに主婦業のできない(であろう)娘を心配して、娘婿の転勤先にまでついていくというのか。
「呆れるでしょ?でも孫よりも娘の方が可愛い人達なの」
「だからって小学生の子供のわがままをそんなホイホイきくっていうのはどうかと──」
もしや香子も親譲りの相当な親バカなのではないか。普通の家庭なら小学生の子供に決定権などないだろう。
ぐだぐだと引き取れない理由を考えていると、香子が醒めた声でつぶやいた。
「葛岡くん、言い訳ばっかりだね」
「え──」
言い訳ばかり──、確かにその通りだった。
幼い瑛太を香子に預けて、親らしいことをしたことなどなかった。そのまま十年もたってしまい、今さら親になる自信なんかない。
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