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菊池の、タバコを持っていない方の手が広務の肩にかかった。
「誰もお前を二課にやるなんて言ってないぞ」
「え……?」
広務が目線を上げると、菊池は眉を八の字にして笑んだ。
「お前、意外と早とちりなんだな。異動になるのは椎名の方。あいつ、四月から一課に異動になるから。お前には先輩として椎名についてやって欲しいんだよ」
「え……、でもさっき、パパにもって……」
だから暗に仕事をセーブして働けと言われたと思ったのだ。
「そうだな。小学生の子供を一人でめんどうみるんだから、残業や出張はなるたけ控えなきゃいけないよな。でももう五年生になるんだろ?中学まであと二年。そうしたらお前だって今までみたいに働けるだろ」
「はい……!」
「たった二年のために異動なんてさせないよ。だからその二年、後輩を育成するために使ってほしいっつってんだよ」
「あっ……、なんだ、そっか……」
本当にとんだ早とちりをしてしまった。安堵と共にその場にへたり込みそうなほど脱力した。
「ははは!そういうわけで、よろしくたのむわ!」
快活に声を上げて笑い、菊池は喫煙所を出て行った。その後ろ姿が見えなくなると、広務は本当にその場でうずくまってしまった。
「なんだよ、もう……」
両手で顔を覆うと、情けないことに涙がこぼれた。
もうお前なんていらない。
そう言われると思ったのだ。
気持ちを落ち着かせる様にそのままでしばらくうずくまっていると、背後のドアが開いた。
「葛岡……さん?」
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