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「あ、すいません……」  誰かに無様なところを見られてしまった。その場を取り繕うに笑顔を作り立ち上がると、タイミング悪くそこに、噂の椎名が突っ立っていた。 「く、葛岡さん!どうしたんですか!?」 「うわっ!」  広務の顔を見た瞬間、一気に椎名が距離を詰めた。そのあまりの勢いに避けようとする広務の足がよろける。 「危ないっ──」  瞬時に椎名に腰を抱かれ、広務は椎名の胸にその身を預けるかたちとなった。ふわっと柔軟剤だろうか、優しい香りが鼻をくすぐる。その姿勢のまま顔だけ上げると、十センチほど高い位置にある椎名の瞳が心配そうに揺れていた。 「大丈夫ですか?」 「あ、うん……」  服の上からはわからなかった、思ったよりもしっかりとした椎名の胸筋を、広務は手のひらで押し返した。  喫煙所で男ふたりが抱き合っているところなど、誰かに見られでもしたらまずい。しかし椎名は全く気にすることもなく、広務の顔に自分の顔を近づけてくる。 「ちょっ──」  互いの吐く息がかかるほどの距離でじっと見つめられ、広務は思わず顔をそらせた。 「目が、真っ赤だ……」  椎名の親指が広務の涙袋をなぞっていく。 「──あっ」  その感触に背筋がぞわぞわっとして、うっかり変な声が出た。椎名の指は男らしい見た目によらず、あまりにも官能的な感触を広務の肌に残した。

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