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「ああ……、なんか気を使わせたお詫びに奢るよ」
広務はスマートフォンをかざした。社の自販機は全て電子マネー対応機になっている。
「いえ、そんな、いいですよ」
椎名は背広のポケットから裸の小銭を出した。若いのにアナログ派のようだ。
ちゃりんちゃりんと椎名が小銭を投入する姿をぼんやり見つめた。
広務より背が高く、すっとした立ち姿の椎名はいい男の部類に入ると思う。黒い前髪は清潔にサイドに流されており、少しのぞく額が色っぽく見える。ちょっと垂れ目気味の二重の目と、すっと通った高い鼻梁に形のよい唇。会社の後輩でなければ一晩お願いしたいタイプかもしれない。
そして何よりあの指。椎名の長くて男っぽい指に視線がくぎ付けになる。指で肌をなぞられた感触が再びよみがえりつつあった。
「これ、よかったら」
無意識に椎名を値踏みしていた広務の前に、突然缶コーヒーが差し出された。
「えっ、あっ?俺に?」
「はい。疲れた時って甘いの飲みたくなりませんか?」
差し出された缶はカフェオレだった。
「もしかしてコーヒーは無糖じゃないとダメでした?」
「いや、そんなことないよ。どうもありがとう……」
後輩に気を使われてしまったな、と思う。ありがたく缶を受け取り、目元にあてた。火照った熱が冷まされて気持ちよかった。
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