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 瑛太とぴったり寄り添い腰かけたのは罪悪感を打ち消したかったからかもしれない。隣に座り瑛太が読んでいる本に視線を落とした。ぎくりと広務は肩を揺らした。  ページにはポップな可愛らしい絵でちまちまと男の子と女の子がたくさん描かれており、その頭上には大きな虹がかかっていた。  虹の下には男女のカップル、男の子同士、女の子同士のカップルが楽しそうに笑っており、かと思えばひとりぽっちで笑っている子も描かれている。  近年、世間一般でLGBTを差別しない風潮が一般的になってきているが、広務自身はそういう運動に関わりたくない。同族嫌悪などではなく、自分達の性について他人に騒がれるのが嫌なのだ。  自分の性は世間の人達からは、あえて『認めなければいけない』ものなのか。わざわざ声高に、理解してほしいなどとアピールなんてしたくない。  目に見えない空気のように、そこにあるものとしてそっとしておいて欲しい。 『おい!おかまー!』  純粋な悪意の声が脳内でこだました。  それは広務が小学生の頃の記憶。「おかま」と呼ばれたのは広務のクラスメイトだった。体の線が細く可愛らしい顔をした男子生徒だった。  その身体的特徴よりも、些細なことですぐしくしく泣く様子を見て同級生の男子が言ったのだ。「おかま」と呼ばれた彼は、そう呼ばれたことにまたしくしくと泣いていた。  小学生の広務はそれをただ傍観者として見ていた。なよなよした彼が「おかま」と呼ばれていることに、無意識に同意したのだ。   それは小学校時代の一瞬のことで、中学を卒業する頃には、誰も彼が子供時代にからかわれていたなんて想像できないほどに、青年らしい成長を遂げていた。  それに比べて──、と広務は思う。無関係のふりをしていたけれど、からかわれるのは自分の方だったのではないか。  もし自分の性が瑛太に露見した時、瑛太はどう思うだろう。クラスメイトがあの彼をおかまだとからかったのは、それが冗談ですむ程度の事と知っていたからで。冗談ではすまない広務は、きっと瑛太に嫌悪される。  ──その本、読んでどう思った?なんでその本を読もうと思った?  気軽に尋ねようと思えど、声は喉元でつかえる。  広務ひとりが沈黙を重苦しく感じていると、廊下の奥からパタパタと足音が近づくのが聞こえた。自分達以外の人の気配を感じることで、さっきまで広務を包んでいた緊張がすっとほぐれた。

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