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「お仕事中すいませんでした!葛岡さんの担任の工藤です!」  開けっぱなしのドアから明るい笑顔を見せたのは瑛太の担任である男性教師だった。背がとても高く、いかにもスポーツマンといった雰囲気で、広務よりもいくつか年下に見える。ジャージ姿であるところが、子供番組の「たいそうのお兄さん」みたいだ。 「こちらこそ、遅くなって申し訳ありません」  電話をもらってからすでに一時間以上経っていた。もうすぐ給食の時間だ。 「いえ。葛岡さん、授業中に吐いてしまったんですが、その後は気分が良くなったみたいなんです。でも熱が三十七度四分ありまして、お忙しいとは思ったんですがお迎えをお願いした次第で」  説明を終えた担任は少し申し訳なさそうな顔をした。そして言いづらそうに、再び口を開いた。 「最近のお子さんは吐きやすい、という保健だよりを先日お配りしたと思うのですが……」 「保健だより?」  広務にはそんなものを読んだ記憶が全くなかった。年度はじめに児童についていろいろ記入しなければならない提出物は受け取ったが、それ以後学校からの手紙は一枚も手にしていなかった。 「瑛太?」  いかにも気まずそうに、瑛太は視線を彷徨わせる。「忘れてた」という声は、蚊の羽音並みに小さかった。 「それとですね、他にも家庭訪問のお知らせと校外活動のお知らせもお渡ししてあるんですが、お返事をまだいただいてなくて……。校外活動のお知らせに関しては、参加されるかどうか至急お返事頂きたく──」  担任から二枚のプリントを受け取った広務はざっと全体に目を通した。二通とも返信の提出期限が過ぎている。 「瑛太!?」 「ご、ごめんなさいぃ……」  ランドセルの奥底から、瑛太はグシャグシャになったプリントを取り出した。それは一枚二枚などではなく、ちょっとした束になっている。 「提出物を忘れるお子さんは親御さんに声かけをお願いしてまして。声かけしていただくことで生活習慣を正していけると思いますので」 「すみません……」  広務は大慌てで校外活動の申し込み書にサインした。家庭訪問については担任が、今日挨拶できたので無理なさらず、という言葉に甘えて『しない』を丸で囲む。その代わり夏休みの始めに二者面談があり、それは保護者全員必ず行うと言われた。

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