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 担任が昇降口まで見送ってくれ、広務はいろいろと申し訳なさで何度も頭を下げた。ペコペコと頭を垂れる様は、まるで仕事のできないサラリーマンにでもなったみたいだ。  時刻は十二時を過ぎ、一度保険証と受診券を取りにマンションに戻ることにした。帰宅して、瑛太が渡し忘れていたプリントを確認する。ほとんどがちょっとしたお知らせばかりだったが、参観日のお知らせが出てきた時はさすがに広務も声を荒げた。 「参観日、終わってるじゃないか!」  先週の木曜日の午後が、授業参観と保護者会の予定になっている。なぜこんな重要な手紙を忘れたままにできるのか。理解できない。 「だって父ちゃん、仕事で来れないじゃん?」  いらつく広務とは反対に、瑛太はしれっとそう言った。確かにその日の午後は取引先との打ち合わせで、瑛太の授業参観には行くことはできなかったと思う。それにしてもだ──。 「俺、参観日とかいいんだ。だって今まで母ちゃんも来られない時もあったし、他の友達だって来ない親もいるもん。いっぱい仕事してる親は普通の日は来れないだろ」 「そうだけど……」  正論だった。小学五年生の子供が、大人の都合を考えてものを言うことに驚きすぎて、ぐうの音も出ない。 「でも……、でも、大事なお知らせも忘れてたじゃん。たいした内容じゃなくても、お父さんが参加できないことでも、もらったプリントは全部見せないとダメだよ」  子供は『こども』のように見えて、実は世間をよく見ている。  それがもし、この複雑な家庭環境のせいだとしたら。これ以上、瑛太に気を使わせることだけはさせたくない。

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