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平日だったため、昼食の食材のストックはなかった。瑛太の腹の虫がぐうぐう鳴くのが聞こえる。
かかりつけだという小児科はウェブ予約しか受け付けておらず、午後の診療の予約を取ってみたものの、診療が始まるのは午後三時からだと書いてある。
様子を見て社に戻ろうかと思っていた広務だったが、もう今日は一日瑛太のために潰すことに決めた。
「お昼どうしよっか。食べたいものとかあれば作れる範囲で作るけど」
相変わらず広務は家庭料理、いや、『お母さんの味』的料理を作るのが得意ではない。先日カレーを作った時など、瑛太の味覚に合わせることをすっかり失念して辛口で作ってしまい、瑛太はカレーをひとくち食べては水をがぶ飲みしていた。結局水で満腹になったようなものだった。
元気そうに見えても嘔吐したのだから、お粥などがよいのだろうか。しかし瑛太は「外の店でメシ食いたい」と言う。家にいても適当なものは作れそうもないので、瑛太の提案にのっかることになった。
瑛太は商店街の中に、母親と共によく行くお気に入りの飲食店があるらしい。平日真昼の商店街を瑛太と歩くのは不思議な気分だ。広務はスーツ姿で、瑛太以外の小学生の姿はない。
場違いといえば場違いな二人組。なんだかふわふわした気分がした。昔、広務が小学生の時、軽い風邪で学校を休んだ日を思い出す。
念のため、と心配性の母親が病院に広務を連れて行った帰り道、二人で喫茶店やファミレスによったりした。
母が連れて行ってくれた喫茶店では、お昼でもモーニングが注文できた。コーヒーの香りと、家では見たことないくらいのぶ厚い食パン。エッグスタンドに乗っかったゆで卵。コーヒーが飲めない幼い広務はミルクセーキを注文した。
それらは広務の中でノスタルジックに思い出される。
妙に懐かしい気分で瑛太のあとをついて歩いていると、瑛太はお目当ての店の前で足を止めた。瑛太の行きつけはチェーンではないカフェで、ドア脇の黒板に『本日のおすすめメニュー』がチョークで書かれている。
広務が古風な喫茶店に懐かしさを感じるように、大人になった瑛太は小洒落たカフェにノスタルジーを感じるようになるのかもしれない。
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