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診察の結果、瑛太は軽い風邪のようだった。嘔吐したのは腹に来る風邪のせいかもしれないし、ただ単に体調が悪かったからかもしれない、というなんとも曖昧な診断で、風邪薬と整腸剤を処方された。
「薬飲むのやだ~。もう、俺、めっちゃ元気なのに!」
言われずとも瑛太の調子が快復しているのは見てわかる。食欲は旺盛で、広務が作った煮込みうどんよりも揚げ物のトンカツや唐揚げを食べたがり、早退した手前遊びにも行けず、半日暇そうにゲームなどをして過ごしていた。
消化の良いメニューで夕食をすませ、ぼんやり二人でテレビを見ていると、広務の携帯電話が鳴った。着信画面には椎名の名前が表示されている。
「もしもし、椎名です。息子さん、大丈夫でしたか?」
「お疲れ様。軽い風邪だったみたいで元気だよ」
「そうですか。よかった」
帰宅途中なのか、椎名の声にガサゴソとノイズが混じっている。
「今、外?」
「はい。今、商店街を抜けた所にあるコンビニの近くです。……葛岡さん、今から葛岡さんちに行ってもいいですか?」
「は?」
広務は即座に断ろうとした。会社の後輩とプライベートを共にする趣味はない。しかし断りの文句は瑛太の割り込みによって阻止された。
「誰?椎名さん?俺もしゃべりたい!」
「もしもし?瑛太くん?」
瑛太は瞳を輝かせ、広務の方へ身を乗り出した。携帯電話から漏れる椎名の声は、瑛太に筒抜けだったらしい。
「もしもし!椎名さん、うちくるの?」
「行ってもいい?お見舞いにアイスクリームがあるんだけど、もしかして食べれないかな」
「いいよ!一緒にアイス食べたい!──父ちゃん、だめ?」
「え、ええぇぇ~……」
本当はすっごくすっごく嫌だけど、今日一日暇で暇で暇を潰し倒した瑛太を思うと、無下に拒むのが躊躇われた。何だかんだで、自分は結構な親バカかもしれない。
「……いいよ」
「ほんと!?やったあ!!」
瑛太は大喜びで自宅の場所を椎名に教え始めた。一回しか会ったことないくせに、驚くほど椎名に懐く様子を見せている。椎名には、子供を懐柔する何かがあるのだろうか。
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