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インターホンが来客を告げた。土曜の午後、広務は瑛太が帰宅するのを待っていた。
昨夜は椎名の優しさに甘えてしまった。実際は甘やかされただけではなかったのだが──、とにかく、昨日は椎名がいなければとことんまで自分自身を責めていたと思う。人肌の温もり、絶えることのない快感だけを追うだけの時間。
現金なもので、あれだけ瑛太のことで思い詰めていたくせに、椎名に抱かれた後は妙に心が軽くなっている。瑛太を引き取ってからずっと、一人で全てを抱え込んでいた。それを椎名がほんの少し、広務の中から掠め取ってくれたようだ。
午前中に小川皐月の母親から連絡があり、瑛太の昼食もあちらでごちそうになることとなった。夕方五時まで遊ばせてから帰す、と言ってくれ、広務は電話越しながら頭を下げた。
部屋の掃除や洗濯をして瑛太を待つ。待っている間に、瑛太達に何が起こったのだろうととても気になってくる。親の欲目だとわかっているが、瑛太はいいこだ。お調子者で生意気な口をきくけれど、意味なく暴力なんて振るうわけがない。
たまに「ブッころす!」とか「グーパンチだから!」などと物騒なことも言うけれど、男子はすぐにいきがる生き物だ。そういう言葉を吐いて、偉ぶりたいだけだとすぐにわかる。
片付けの終わった部屋で、広務はぼんやりと窓の外を見ていた。その時だった、インターホンが鳴ったのは。
瑛太と揉め事を起こした生徒の母親が乗り込んで来たのかと思った。全面対決勃発──、不穏な事態を想像し、クラクラした。
「はい……」
意を決して応答すると、その女性は画面越しに深々と頭を下げた。
「いつもお世話になっております。黄瀬陽の母ですが、葛岡さんのお宅で間違いないでしょうか?」
明らかに瑛太の友達であるような言い方に、広務は子供の方を凝視した。
「あっ……!『ヨーチン』」
ぺこりと男の子が頭を下げる。広務は彼に会ったことがあった。瑛太が通っている美容院で、皐月と共に出てきた男子だった。
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