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「う……」
椎名の硬直が徐々に内側を充たす。あまりにもきつすぎて、苦悶の声が漏れた。
広務の痛苦に気がついた椎名が体を引く。しかし広務は椎名の腰に両脚を絡めた。
「このまま」
「でも……」
椎名の躊躇いを飲み込むように、広務は深く口づけた。口腔で快楽を貪れば、それに反応するように体のこわばりが解けていく。
長いキスに集中している間に、椎名のそれは完璧に広務の中に納まっていた。
「ああ、すごく久しぶりだ……」
広務は感嘆を、笑んであらわした。
愛しむように自分の下腹部を撫でる。この肌の奥が椎名で塞がれていると実感する。
「またこんなふうに広務さんに入れるなんて──」
椎名はうっとりと広務を見た。
「思ってもいなかった?」
「いや……いつかまたこうなるって信じてました」
椎名は広務の首筋に、顔を伏せた。熱い息がかかる。
広務はわずかに震える椎名の背を撫でた。
「椎名、泣いてる?」
「……泣いてません」
ちらりとこちらを見た瞳は、確かに泣いていない。それどころか、淫欲の色が滲んでみえる。
そうだ。椎名はベッドで人が変わるんだった──。
「ああっ!」
ガクガクと視界が揺れる。椎名が激しく揺さぶるからだ。
「あっ!ああっ!」
まるで壊れてしまったかのように、広務の唇から母音が漏れ続けた。
「広務さん、すごくよさそうだ……」
椎名が口角をあげるのを見て、広務は首を横に振った。誰かに抱かれることすらなかったのに。久々の身体にこんな刺激は強烈すぎる。
「も、もっとぉ……!」
もっとゆっくりして欲しい、と請いたいのに、暴れる裸体は思うように言葉を繋げられない。
「もっと?もちろん、もっと激しくします……ッ」
椎名は腰の動きを更に速め、広務の中に熱を放った。
「は、あ……、あぁ……」
熱い液体が、広務の奥をたたきつけるように放出される。あまりの快感に全身が震える。
椎名は喉をそらせて、短い息を数度吐いた。
「……ん?……ああっ?」
息を整える僅かな間で、椎名のそれは見事に復活した。
「まだいけますよね?広務さん」
「うぇ?ええ……?」
*****
「──ハッ……!」
いつの間にか気絶してしまっていたのだろう。目が覚めると、部屋の明かりは落とされていた。
体を汚したあれこれの液体はきれいさっぱり拭われていて、糊のきいたホテルのガウンを身に纏っている。
きっと椎名が着せてくれたのだろう。広務は隣に向けて寝返りをうった。
「しーな……」
起きてほしいような、起こしたくないような、どっちつかずの気分でそっと名前を呼んだ。
「う……ん……」
広務の隣でスヤスヤと寝息をたてていた椎名だったが、広務の呼びかけに僅かに反応を見せた。
「あ……、おはよー……ございます?」
部屋の隅にあるフットライトの弱い明かりが、椎名の顔に陰影を作る。よく見ると長いまつげの影が微かに揺れるのに、広務は見入った。
「今、何時ですか?」
「まだ夜中の二時すぎ」
備え付けのデジタル時計で確認して教えてやると、椎名は大きなあくびをひとつこぼして、広務にのしかかってくる。
「おい……」
広務は苦笑いで、やんわりと押し返した。
ついさっきまで椎名に何度も絶頂を与えられて、今夜はこれ以上付き合いきれない。しかし、くどいくらいに愛情を態度で示されて、身も心も幸福感に満ちていた。
微笑みかければ、椎名も同じように微笑み返してくれる。きっと広務と同じように、椎名も恋しい人に再び触れられることの喜びを感じているのだろう。
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