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第4話
side蒼
今7:30だからあと10分くらいかな。
一縷の迎えを待つ僕、東条蒼。高二。男で、β。
国内で屈指の大企業、東条ホールディングスは僕の父の会社。
中学までは、毎日送迎車で通学していたが、高校生になり、送迎車での通学は恥ずかしかったから、入学して1週間で送迎車での通学はしたくないと両親に直談判した。
子供の頃に誘拐されたことがあるため、両親的には送迎車での通学をしてもらいたいらしい。いつまでも僕は子供じゃないんだ。
そこで、両親から信頼されている一縷と一緒に通学するならどうかと代替案を伝えると快諾してくれた。
一縷には事後報告になってしまったが、僕のお願いを断ることは今までなかったから、きっと大丈夫だろう。早速SMSで一縷に報告すると、一縷も快諾してくれた。
一縷こと、立華一縷とは、幼稚園からの付き合い。
家も近所だから、小さい頃から家族ぐるみの付き合いがある。
小学校に上がってすぐくらいに、僕が誘拐された。
多分、スタンガンで気絶させられたんだと思う。その時の記憶がないから何とも言えない。
連れて来られたのは、どこかの倉庫だった。
すごく埃っぽくて、息苦しかった。どれくらいその場所にいたのだろう。
犯人を刺激しないように静かにしていたら、急に犯人が苛立ち始めた。
身代金を受け取りに行った仲間からの連絡が途絶えたらしい。
隠れてやり過ごそうと思ったのが裏目に出た。犯人の目に留まってしまった。
犯人がゆっくりした動きで僕の方に近寄る。
僕は怖くて後退る。
その攻防戦が長くは続かなかった。
壁に背中が当たった。逃げ道はない。
右も左も大きな箱が置かれている。
正面には犯人がすごい顔で僕を睨んでいる。
一瞬の隙をついて逃げようとしたが、子供の考えなんて単純である。
犯人に突き飛ばされて頭を打った。痛さに悶えていたら犯人にマウントを取られた。
驚いて犯人を見た時、首に何かが纏わりついた。
犯人の手だった。
首を絞められていた。
ぎりぎりと音がしそうなくらい、すごい力で絞め上げてくる。
呼吸ができない。意識も飛びそう。
そんな中思ったのは、一縷のことだった。
死ぬなら、最後に一縷の笑顔が見たい。一縷に会いたい。
意識はそこまでだった。
大人の声が周りで聞こえる。目を開くと、両親の顔があった。
父が、母が泣きながら僕を力いっぱい抱きしめてくれる。温かい。さっきまでの恐怖が嘘のようだった。すごく安心した。
両親が一縷が僕を見つけてくれたんだと教えてくれた。一縷を探した。
少し遅れて一縷が到着したらしく、一縷の父君から、僕が見つかったことを聞いたんだろう。
真顔の一縷が僕を見た。
目が合い、心配をかけないように今できる精いっぱいの笑顔を作って一縷に笑いかけた。
そしたら、一縷が泣き出した。
僕の方に泣きながら近づいてくる。
長い間一緒にいるけど、あんなに泣いている一縷はあの時だけじゃないかな。
一縷も泣きながら一緒に救急車に乗って病院までついてきてくれた。
一縷は僕の命の恩人。
一縷の望みなら何でも叶えてあげたい。
それくらい一縷は僕にとって生きる全てで、一縷なしでは、僕はもう生きていけない。
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