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第8話
家に着いて、母と一縷が言葉を交わし、僕の部屋に向かう。
僕の部屋に来た時に座るいつもの定位置に二人それぞれ座った時、すごい真面目な顔で一縷が切り出した。
「あお、最近体調とか感覚とか、うまく言えないんだけど、そういうのおかしくないか?」
いきなり何を言われたのかと思って呆気に取られてしまった。
「突然どうしたの?」
「俺たちβって判定出たけど、最近の俺たちの様子って、βの特性じゃないような気がするんだ」
「ん、そうだね。確かに何か変だなぁとかうまくいかないなぁって思うこと増えたね」
「だから、再判定してもらわないか?これでまたβ判定ならそれでいいし、あの時の判定が誤判定だったら怖いだろ?」
「うん。でも個人で判定するのって結構お金高いんじゃない?」
「バイトする」
「じゃあ、僕も一緒にいちとバイトする」
「本当か?あおのご両親を説得するの難しいかもしれないけど一緒にバイトしてくれるのか?」
「もちろん。いちばかりに負担かけられないしね」
「ありがとう、あお」
なるほど。一縷は第二の性について考えていたのか。
確かにおかしいと思うことは最近増えた。
まず、勉強に付いていくことができなくなった。
僕らの学校は地区の高校の偏差値トップ3に入るくらい高いところだから、かなり難しいレベルの勉強なんだと思う。
それでも中学までは、要領よくこなせてた。
最近は勉強しても、うまく結果に結びつくことができなくなってきた。
運動も然りだ。
体力が付いていけなくなった。
少し運動しただけで息が上がる。
周りから明らかに遅れているのは分かっていた。
二人で話し合って納得したので、一縷は母と二言、三言言葉を交わして帰って行った。
予め一縷から週末再度訪問すると言われてたので、朝から家で待機していた。
チャイムが鳴る。
家族で一縷を迎えた。
すると、一縷も家族で来ていた。
確かにあの話は子供だけでしていい話ではない。
一縷は朝早くから訪問したことへの謝罪とこの間僕らが話し合って決めたことを搔い摘んで説明した。
重い沈黙が続く。
沈黙を破ったのは、母だった。
高一の夏休みあたりから薄々は気付いていたとのこと。
一縷の母君も、同じくらいの時期に気付いていたらしい。
やっぱり母って偉大なんだな。
再判定するにあたって、二人でバイトしたいので許可をもらいたい。
一縷が頭を下げたタイミングで僕も「お願いします」と頭を下げた。
再び訪れる重い沈黙。
『やりたいようにやりなさい』
父が許可を出した。まさか許可がこんなにあっさりもらえると思わなかったので驚いた。
許可がもらえたが、条件がついてきた。
父の会社の雑務がバイト内容。
シフトは必ず二人一緒に組むこと。
バイト先からの往復も一縷が僕を送迎すること。
一縷は父から提示された条件を受け入れることを伝えると、『蒼のことを、よろしく頼みます』と両親揃って頭を下げた。
僕も一緒に頭を下げる。
「ご期待に沿えるよう、がんばります」と一縷はすごく頼もしい言葉を言ってくれた。
両親に挨拶を済ませ、一縷一家は帰宅した。
初めてのバイトはすごく楽しみだ。
しかも、一縷と一緒だから余計に楽しみなのかもしれない。
なるべく一縷の負担にならないように自分でできることは精一杯やろう。
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