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第10話

蒼を座らせて、俺は蒼の顔を覗き込んだ。 「あお、大丈夫か?」 「うん、大丈夫だよ」 「でも顔真っ青だぞ?」 「そう?」 「結果がショックだったんだろう?」 「...!やっぱりいちには敵わないなぁ」 「あおはすぐに顔に出るからな」 「...もう僕、いちの隣にいられないね。いつ来るか分からない発情期が来た時、いちに迷惑がかかっちゃう」 「誰がそんなこと言った?」 「僕がそう思った」 「あおが俺から離れたいなら、そうすればいい。だけど、これだけは言わせてくれ。あおがΩだとしても、あおはあおだ」 蒼は泣いた。 ボロボロと大粒の涙をこぼした。 泣き顔を見せたくない蒼は下を向こうとした。 それを俺は両頬を両手で包み込んで阻止し、真っ直ぐ俺に視線を向けさせて続けた。 「あおに発情期が来たとしても、俺は見境なくあおを襲ったりしない。それだけあおが大事だから。…だから俺はあおの隣にずっといたいよ」 ほとんど告白したようなものだったが、あおを俺の隣にいさせるには言う必要があった。 「いち、ありがとう。僕だって、ずっといちの隣にいたい!」 蒼が俺に抱きついてきた。 抱きしめて、まだ泣いている蒼を落ち着かせることに集中した。 泣き疲れたのだろう。蒼は寝た。 起こさないように抱きかかえ、ベッドに寝かせて、蒼のかわいいおでこにキスをした。 起きていたら、どうしようとか考えるより、体が動いていた。 こんなに泣く蒼を見たのは初めてで、すごく愛おしくてたまらなかったから、つい出来心でキスしてしまった。 自分の心の中に仕舞っておけばいいだけだ。 さすがに冷静になって行動を振り返ると動揺してしまったので、少し蒼の寝顔を見て落ち着いてから大人が待つ部屋に戻った。 「あおは疲れたようで寝かせてきました」 俺の肩が濡れていたので、蒼が泣き疲れて寝てしまったことを大人たちは何も言わずに理解してくれた。 大人たちは大人たちで話があったようで、俺に話し合ったことを説明してくれた。 俺がαで、蒼がΩ…当然のように、いつか蒼にも発情期が来る。 その時今までみたいに俺が側にいたら、俺が蒼を襲う可能性がある。 もしもの時、俺たちはまだ学生で、責任を取るにしても難しい。 だから、今まで蒼の側で見守ってくれたことに感謝するが、今後は必要以上に蒼に近づかないでもらいたい。 そんな感じのことだった。 言われるだろうとは予想していた。 だから俺もさっきまで蒼と話し合ったことを伝えた。 蒼に発情期が突然来たとしても絶対に蒼を襲ったりしないことは何度も伝えた。 大人たちに俺の蒼に対する気持ちがバレるかもしれなかったが、なりふり構っていられなかった。 蒼から離れるなんて許容できない。 離れない道があるなら、土下座でも何でもやるくらいの気持ちだった。 『一縷くんは蒼をどう思っているんだい?』 蒼のお父さんはもう気付いている。 「蒼は蒼です。蒼の第二の性が何であろうと、蒼と一緒にいたいです。一生隣にいてもらいたいと思っています」 ありのままの気持ちをぶつけることにした。 許されるとは思ってないけど、生半可な気持ちでないことを知ってもらいたかった。 蒼のお父さんは何か考えているのだろう。難しい顔をしている。 『その気持ちに嘘偽りないね?蒼の側から離れたりしないね?』 「もちろんです」 『...息子のことをよろしくお願いします』 まさか許してもらえると思わなかった。 絶対に拒否されると思っていた。 俺の両親も呆れてはいるが、自分で蒼をちゃんと守ってやれと言ってくれた。 全て終わった。 濃密すぎる一日だった。 俺の気持ちを自分で言いたいから今の話は蒼には内緒にしてもらう約束も取り付けた。 あとは俺がちゃんとケジメをつければいいだけだ。 だけど、蒼の運命の番が俺じゃなかったら? 運命の番が蒼の目の前に現れて、俺の目の前で攫われてしまったら? きっと蒼は俺の元からいなくなる。それが俺の中で納得することができるだろうか? 答えは全て否だ。 もし、蒼の運命の番が現れたら、蒼を外に出さずに監禁してしまえばいいんじゃないか? 悶々と考えていたら、知らない間に物騒なことまで考えていた。 そんなことをしなくて済むくらい、責任を取れるくらい、誰も口出しできないくらいの力を身につけないと蒼に俺の思いを伝えられないし、蒼がずっと俺の元にいてくれない。 帰宅の道中、蒼との幸せな未来のために、これから俺がやらなければならないことを考えた。

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