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第11話

side蒼 一縷とバイトを始めて1ヶ月。 毎日が楽しくてたまらない。 バイト内容は、お茶くみ、コピー、各部署から上がってくる物品補充など。 今日は企画部の会議があるため、会議室の準備を一縷と二人でやっている。 作業は予め分担してて、一縷は資料のコピーの配置で、僕はお茶とコップのセッティング。 そんな中、うっかり僕が湯飲みを落として割ってしまった。 一縷が僕を見て、心配そうにするから努めて大丈夫な振りをして破片の片付けをする。 これまたうっかり僕が湯飲みの破片で指を切ってしまった。 本当にドジすぎる…。一縷がさっきよりももっと心配そうに僕を見る。 だけどさっきよりも何だか一縷の様子がおかしい。 顔がやたら赤いし、息が上がってる。興奮状態のようだった。 どんどん一縷が僕の方に近づく。 「いち、顔赤いし、息上がっているけど、大丈夫?」 たまらず声をかけた。 一縷は現状の自分に戸惑っている様子で空調の温度を変えてもらうと会議室を後にした。 僕も何が起きたのか、よく分からなかったけど、今はコップの破片の片付けと自分の指の手当てをやらなくちゃ。 のんびりしてる暇はないからね。 コップの片付けはもう終わっている。 最近よく怪我をするため持ち合わせていた絆創膏を貼り、一縷が戻ってくるのを待った。 5分くらいしてから一縷は戻ってきた。 出て行く前よりはいつも通りの一縷のようだった。 「いち、もう大丈夫?」 大丈夫そうに見えたけど、やっぱり心配。 「もう大丈夫だ。心配かけてごめんな」と一縷は苦笑いしながら答えてくれた。 ――さっきの状態の話をこれ以上されたくないんだ。 そう言われてるような気がした。 だから僕はあえていつものように振舞った。 「大丈夫ならよかった。早く準備終わらせちゃおう」 そう言って手早く会議の準備を整えた。 バイトを始めて3ヵ月。目標金額に到達した。 判定には遺伝子情報が必要で、血液でも唾液でも遺伝子情報が含まれる物なら何でもよかった。 僕たちは頬の内側の口腔内粘膜を提出した。 血液の場合、一縷も僕も痛いのは嫌いなので却下。 唾液はなぜか一縷が頑なに拒否していたので却下。 何が嫌だったんだろう? 消去法で決まったのが、頬の内側の口腔内粘膜の提出だった。 提出して2週間後に結果が送られてきた。 僕の家に再び両家一家が勢揃いし、結果発表の場を設けることとなった。 結論から言って、一縷がαで、僕がΩ。 まさか自分がΩだったなんて想像もつかなかった。 というか、想像したくなかった。 こんなこと言っちゃいけないのは分かってるんだけど、Ωなんて社会的地位最底辺の種。 絶対に嫌だった。 それに、一縷がαなら、この世界のどこかに一縷の運命の番がいるということ。 僕がずっと隣にいられないということ。 僕は一縷なしでは生きていけない。 一縷が僕の世界の全てなのに、これからどうやって生きていけばいいの? 僕には耐えられない現実が怒涛のように押し寄せてきた。 余程ひどい顔をしていたのだろう。 一縷が僕を支えて部屋まで連れて行ってくれた。

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