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第12話
部屋に入ると、僕をいつもの場所に座らせて一縷が僕の顔を覗き込んだ。
「あお、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
「でも顔真っ青だぞ?」
「そう?」
「結果がショックだったんだろう?」
「...!やっぱりいちには敵わないなぁ」
「あおはすぐに顔に出るからな」
「...もう僕、いちの隣にいられないね。いつ来るか分からない発情期が来た時、いちに迷惑がかかっちゃう」
「誰がそんなこと言った?」
「僕がそう思った」
「あおが俺から離れたいなら、そうすればいい。だけど、これだけは言わせてくれ。あおがΩだとしても、あおはあおだ」
一縷は、Ωの僕じゃなくて、ただの一人の人間としての僕を見てくれている。
僕は自分をΩとしての自分としてしか受け入れられなかったのに。
一縷が受け入れてくれるなんて考えてなかった。
すごく嬉しくてたまらなかった。
自然に大粒の涙がボロボロと流れてきた。
泣いたら一縷が困るから泣き止めと自分に言い聞かせているのに、涙は全然止む気配を見せない。
一縷に泣き顔なんて見られたくない。
下を向こうとした。
すると、一縷は僕の両頬に手を添えて、下を向かせず、視線が一縷に向くように固定した。
「あおに発情期が来たとしても、俺は見境なくあおを襲ったりしない。それだけあおが大事だから。…だから俺はあおの隣にずっといたいよ」
懇願に近いような表情の一縷。
こんな表情をさせたいわけじゃない。
一縷にはいつもクールでかっこいいままでいてもらいたい。
今の一縷の表情を自分がさせているのだと思うと自分の気持ちを偽ることが辛くなってきた。
「いち、ありがとう。僕だって、ずっといちの隣にいたい!」
本音だった。
さっき言ったのは、自分に言い聞かせるための建前。
今なら諦められるはず。
すごく時間がかかると思うけど、一縷のことは幼馴染の男の子。
そう思えると思っていた。
さっきまでは。
もしかしたら、僕は一縷の運命の番じゃないかもしれない。
一縷はどこかで運命の番に出会うかもしれない。
僕を置いて、番の所に行ってしまうかもしれない。
だけど、そんなことを吹き飛ばすくらい、さっきの一縷の言葉は僕の中で響いた。
幼稚園で出会って、ずっと一緒にいて、一緒にβ判定をもらった。
ずっと一緒。
離れるなんて考えられない。
離れられない。
離れたくない。
毎日が一縷と一緒。
小学校卒業の時、一縷のことが好きだと自覚した。
誰にも言ってない、この気持ち。
ほとんどさっきの言葉で言っちゃったようなものだけど、一縷は気付いたかな?
本音を曝け出した時に恥ずかしくて一縷に抱きついた。
泣きながら笑ってる顔なんて、ひどいにも程がある。
さすがに、好きな人には見られたくなかった。
嬉しくて切なくて、いろんな感情がごちゃ混ぜになりすぎて、僕は一縷の腕の中で泣き疲れて眠ってしまった。
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