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第20話
side蒼
僕の初めての発情期以降、一縷との関係に大きな変化はなかった。
というより、変化しないようにした。
やっぱり一縷はあの日のことを気にしているようだったから、何もなかったかのように一縷には接した。
僕ら二人して進学組だったから、あの日以降ずっと受験勉強が忙しかった。
一縷にはまだ伝えてないけど、僕は海外の大学に留学するつもり。
きっと受験前に伝えると一縷も一緒に留学するって言いかねないから、卒業式まで伝えない。
僕は今まで一縷に依存しすぎてた。
今更かもしれないけど。
いい機会だし、一縷と離れて自分一人の力でどこまでできるか分からないけどやってみたい。
卒業式の後、一縷に部屋に来てほしいと告げた。
一旦家に戻って着替えてから行くとのことなので、僕も家に帰って着替えて一縷の到着を待った。
一縷が到着して、部屋の定位置にお互い座る。
決意は固まっているけど、いざ言うとなると勇気がなかった。
気持ちを落ち着けて言い出すタイミングを計って、一気に切り出した。
「単刀直入に言うね。僕、大学は海外留学することにした」
一縷は鳩が豆鉄砲食らったように目を丸くして固まっている。
そりゃそうだよね。
国内の大学に進学だと思ったはずだから。
いきなり海外留学なんて言われたら驚くよね。
今まで隠しててごめん、一縷。
「いちにこのことをいつ言うかずっと悩んでた。言ったら、いちも一緒に海外に行くって言うでしょ?いつまでもいちに頼ってばかりじゃいけないと思ったんだ」
海外留学の理由を一縷に告げる。
一縷は納得してくれるかな?
「年に何回かは帰ってくるんだよな?」
「帰ってくるつもりだけど、忙しいと帰ってくるの難しいかもしれない」
「…そうか」
「うん」
納得してくれた?
今一つ微妙すぎる反応で納得してくれたか分からない。
一縷には何度か帰ってくるとは言ったけど、帰ってくるつもりはなかった。
大学だけでなく、大学院まで進学するつもりなので、最低でも6年は日本に帰るつもりはなかった。
それが僕の決意で、一縷から自立するケジメだった。
「あおは大丈夫なのか?一人で海外で生活していくことに」
「さすがに一人暮らしになるから、Ωしか住めない居住区に住めるように手配したよ。だから犯罪に巻き込まれることもないとは言えないけど、割と低くなると思う」
「大学はα・β・Ωの共学なんだろ?」
「僕が行く学部はΩしかいない学部でセキュリティーとかもしっかりした校舎だから大丈夫だよ」
「校舎は大丈夫かもしれないけど、万が一構内で襲われるかもしれないだろ?」
「ここと同じくらい第二の性についての法案が厳しいところだから、大丈夫だよ。仮に襲われたとしたら、襲った相手は退学処分になるから。ぬるい校則じゃないから安心して」
今までずっと一緒にいたから、やっぱりいっぱい不安になるよね。
一縷は気になるあれこれを聞いてきた。
僕は決まっていることや事実を答えた。
「分かった。4年だよな。日本で待ってるよ。帰ってくる時は、ちゃんと連絡しろよ」
「もちろんだよ。なるべく連絡するから」
一縷を納得させられた。
ただし大事な部分は隠し事をしてだけど。
帰っては来ないけど、連絡はできるだけする。
さすがにいきなり距離的に離れて、精神的にやっていける自信はなかった。
それでも、少しずつ自立していこう。
一縷のためにも、僕のためにも。
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