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第21話

side一縷 大学に入って、さすがに高校までとはいろんなことが違いすぎて、精神的に疲れる日々だった。 蒼からも毎日メールが来た。 時差があるから何通もやり取りできないけど、その日あったことや新天地での生活なんかが書かれていた。 頻発にメールしていたのも最初の一月くらいで、日々出される課題が多いとかで連絡が一週間に一通、一月に一通、半年に一通と、どんどんメールが来なくなった。 蒼が近くにいた時はなんてことなかったのに、急に離れて喪失感が半端なかった。 気が狂いそうだった。 何かに没頭したかった。 サークルには入っていなかったから、勉強とバイトに明け暮れた。 なるべく取れる資格は在学中に取ろうと思い、ありとあらゆる資格試験を受験した。 バイトも勉強に支障が出ない程度にシフトを入れて、蒼のことを思う時間が少なくなるようにした。 おかげで、毎日忙しくしていたので、蒼のことを考える暇はなかった。 大学3年になって、就活も始まった。 今年も、例年のように就職氷河期と呼ばれる年のようで、周りも全然就職が決まらず、苛立つ奴や絶望して引きこもり始める奴、就職せずに大学院まで進学しようとする奴など、様々だった。 俺は、在学中に多くの資格を取得していたこと、学業成績優秀だったことなどの要因が重なって大手の上場企業に早々に就職が決まった。 蒼にも就職が決まったメールを入れた。 2週間後『就職おめでとう』と、メールが返ってきた。 大学も卒業し、新人研修が始まった。 とりあえず全ての部署を研修中に回り、欲しい人材を各部署の部長が選抜していく方式らしい。 未だ学歴社会や性差別的な風習がある会社が多数なのに、完全に能力を見た上で選抜されるというのはやりがいがある。 しかし、能力があるから希望の部署に配属されるとは限らないが…。 4月、5月、6月…。 時が経つのは、やっぱり早い。 毎日が新しいことだらけで、必死に食いついていっているから早く感じるだけなのかもしれない。 経理部、人事部、営業部、開発部、総務部、企画部、管理部…。 本当に色んな部署に行った。 新しいことを知るのが、こんなに楽しいとは思わなかった。 俺は、全部署の部長から声がかかったらしい。 希望の部署に配属してくれるとのことなので、営業部を希望した。 それからというもの、新入社員として、仕事を一から覚えていかなければならず、蒼にメールすることもなかった。 蒼とメールをしなくなって3年。 俺は異例の早さで主任になった。 今まで必死で仕事をやった。 残業のしすぎで倒れそうになったこともあった。 おかげで2週間の有給休暇を取ることができた。 普通に考えたら長すぎる有給で許可されないし、周りからはブーイングものだが、幸い周りからはゆっくり休んでくれと言われた。 そんなにひどい有り様だったのだろうか...。 この頃になると、何で蒼からのメールが減ったのか分かってきた。 蒼なりに誰にも文句を言わせないだけの実力を手に入れたかったのだろう。 留学を教えてくれた日、蒼は自立したいと言っていた。 敢えて知らない土地に身を置き、自分自身に苦行を強いる。 俺が近くにいたら、すぐ甘えてしまうから海外を選択してまで。 そこまでして手に入れたかった力。 今の俺なら、少しは分かる。 蒼から誘われた日、本当は蒼を俺のものにしたかった。 あの日蒼の全てが欲しかった。 でも、俺には蒼も俺自身も守れるだけの力がなかった。 力が欲しい。 あの日以来何度も思ったことだ。 蒼が近くにいないだけで、弱気になって、なるべく蒼のことを考えないようにしていたから、今頃になってやっと蒼の思いを理解することができた。 遅すぎる。 あまりにも遅すぎる。 こんなかっこ悪い俺だけど、今なら会いに行ってもいいだろう。 今日から長期休暇。 最近買った蒼への土産を胸ポケットに仕舞って、昨日あらかじめ予約していた飛行機に乗って蒼の元に向かった。

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