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第22話
※小スカ表現微妙にあります。苦手な方は戻ってください。
side蒼
大学に入って一月。
目まぐるしい毎日を送っている。
一縷からは毎日メールが来る。
日本とだと時差がある関係で、何通もやり取りできないけど、一日一通は返している。
だけどそろそろメールの返信も間隔を開けよう。
毎日メールしてちゃ、日本にいた頃と何も変わっていない。
一縷から自立するんだ。
一縷の隣にいられるような強さを手に入れるために。
今は一縷におんぶに抱っこ状態。
全然強くない。
誰にも文句言わせないためには、もっと実力をつける必要があった。
僕はΩの中でも発情期が重いレベルの体質だったこともあって、なかなか薬が効きにくかった。
だから薬学部に進学した。
僕みたいに発情期が重いレベルの子でも効く薬を作りたかった。
それが一番の理由。
というのは建前。
薬の開発なんて何年もかかるし、開発費用も莫大だし、実際使われるようになるまでなんて更に時間がかかる。
だけど、一度認めてもらったら、莫大な力が手に入る。
僕がやろうとしてる強さはすごく時間のかかる方法だった。
だけど、これさえできたら誰にも文句なんて言わせない自信があった。
だからこの道を選んだ。
これが本音。
それまで一縷は待ってくれるかな?
相変わらず一縷からは毎日のようにメールが届く。
だけど、いつまでも毎日メールすると自立できなくなりそうので、僕から課題が多くて忙しいので返信が遅れると簡単なメールをして、少し距離を置いた。
それから数日後、僕はこの歳でおねしょをしてしまった。
昨日ちゃんと寝る前にトイレに行ったのに…。
次の日はおねしょしてなかった。
ただ調子悪かっただけだろう。
そう思っていた。
一月《ひとつき》後、またおねしょしていた。
なぜだ?
何が原因なんだ?
思いつく原因がなかった。
前回と今回で共通することはなんだ?
その日一日そればかり考えて、ようやく分かった。
一縷からメールが来ているのに、返信していない。
自分が思っている以上にストレスになっていて、それが原因になっておねしょしていたようだった。
一縷から物理的に離れただけでなく、精神的にも離れようとして、体が限界を超えてしまったのか。
案外人間って脆い生き物だな、なんて自虐的に考えて、今後のこともあるので対策を練った。
とりあえず、俺が思う一縷の一番いい写真を引き伸ばすだけ引き伸ばして部屋に置いた。
一縷から誕生日だったり、クリスマスだったりでもらったプレゼントを部屋に並べた。
部屋中を一縷で埋め尽くしてみた。
その後おねしょはなくなった。
メールを断つ代わりだから、今の部屋の状態は少しだけ許してね。
しばらくして、大丈夫になったら、ちょっとずつ減らしていくから。
一縷から自立するなんて言いながら、まだまだ一縷に依存しちゃってる僕を一縷は許してくれるかな?
そんなことを思いながらも、日々の大学生活で課題が山のように毎日出題され、それをこなしていくだけで精一杯だった。
部屋に増える資料の代わりに部屋中に置いた一縷からのプレゼントはクローゼットの奥へ仕舞われていった。
大学3年になった時、一縷から就職が決まったとメールが入った。
日本ではもう就活の時期か…。
僕はこのまま大学院に進学だから、就活とはまだ縁がないかな。
就職するにしても、日本でするか、このままここでするか…。
それも考えておかないと。
『就職おめでとう』と簡素なメールを返信した。
それから、僕は卒論で忙しくなり、大学院への入試もあり、一縷のことを思う時間が極端に減った。
無事大学院に進学することが決まり、卒論も受理され、晴れて大学を卒業した。
この頃になると、一縷のものは部屋から全然なくなっていた。
4月になり、大学院へ。
とりあえず、今のところは修士課程だけのつもりだけど、博士課程まで取得するのも悪くないなぁ。
博士まで取るとなると、あと何年かかるか…。
当初は修士までのつもりだったから…。
今後の研究次第で、どうするか考えよう。
一縷からメールは完全に来なくなった。
一縷も毎日研修とかで忙しいんだろう。
きっと前までなら寂しくてたまらなかったはず。
今はやることが沢山ある。
今やっている研究が認められたら、きっとこの先の道が開けるはずだ。
これを認めさせるために寂しいとか辛いとか弱音を吐いている暇はなかった。
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