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第26話

「俺、高校の時あおからの誘い断っただろ?あの時言ったことは本音だ。学生だったし、何の力もない子供だった。だから、必死で今までやってきた。一流企業に就職して、役職も付いた。やっと今このタイミングだって思った。だから、あおのところまで来たんだ。はっきり言います。東条蒼さん、俺と結婚してください!」 今、一縷何て言った? 僕に「結婚してください」って言った? 実は「結婚するんだ」とかじゃない? 聞き間違えてない? ドッキリとかでもない? 本当に僕でいいの? あまりに嬉しすぎて固まってしまった。 今日は何回一縷の前で固まってしまえばいいんだ。 かっこ悪い。 まばたきをしたら、涙が零れた。 泣いてしまったから一縷を焦らせてしまった。 「ごめん、あお。泣くほど嫌だったか?」 「ううん。泣いてごめんね、いち。ありがとう。嬉しい。僕の方こそ、不束者ですが、末永くよろしくお願いします」 本当に僕でいいんだ。 一縷とずっと一緒にいられる。 すごい幸せ。 思いっきり一縷の胸に飛び込んで、力いっぱい抱き締めた。 そしたら、一縷も同じように力いっぱい抱き締めてくれた。 こんなに幸せでいいんだろうか。 ちょっと怖いくらいに幸せ。 一縷は今ホテルに泊まっていると教えてくれた。 ここからじゃ結構距離がある。 せっかくこんなに近くにいるのにもっと一緒にいたい。 だから僕は部屋に泊まればいいと提案した。 同じ部屋でいればいつでも会える。 一縷は僕からのお願いを断ったことはない。 今回も提案を承諾してくれて、同じ部屋で寝食を共にした。 だけど、一縷が日本へ帰る日がやってきた。 いつかは来ること。 自分で一縷から離れると決めたんだ。 今更女々しく追い縋ったりしない。 研究もあと少しのところまで来た。 ラストスパートだ。 一縷からたくさんのエネルギーをもらった。 だから、がんばれる。 どんな困難だって立ち向かっていける。 一縷が保安検査場へ向かう時、すごく恥ずかしかったけど、僕から一縷へ触れるだけのキスをした。 唇が触れた瞬間、再判定でΩだと分かった日に見た夢が頭の中に見えた。 僕が『葵』で、いちが『壱瑠』。 二人は心中しようとしてて、その前に『来世で結ばれる』約束をして、刺し合い、川へ身を投げた。 それまでのデートの様子とか一緒にいた時の些細なこととか…とにかくいろんなことを見た。 正確に言うと、思い出したと言うべきかな。 あの当時のことを全部思い出した。 唇が離れ、一縷と目が合う。 一縷も何かを見たようだった。 「俺思い出したよ、全部」 「僕も」 「あおが『葵』だったんだな」 「いちが『壱瑠』だったんだね」 「俺たち生まれる前から恋に落ちてたんだな」 「そうだね。これが運命ってやつなんだね」 「俺たちこそ本当の運命の番だな」 「うん。あの時の約束が今世で果たせて、いちに出会えて、恋できて、本当によかった」 「俺も」 そう言い終わると、僕たちはさっきまでの触れ合うだけのキスではない、舌を絡める深いキスをした。 プロポーズという素敵な贈り物をくれた一縷。 それに見合う贈り物を…と考えた末にしたキス。 それがこんな結果をもたらすなんて。 恥ずかしかったけど大胆になれた僕、グッジョブ! そんなことを考えながら、一縷の乗った飛行機を見送った。 とりあえず、研究が終わったら日本へ一度帰ろう。 今まで迷惑をかけた両親へ今回のことをきちんと報告しないとならないからね。

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