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第29話
留学先での研究は終わり、臨床試験に移行した。
研究自体は認めてもらった。
留学先の国の大手製薬会社から今回の研究の製薬を行うにあたっての主任責任者として来ないかと打診があった。
その時一縷からプロポーズを受けた後だったので、すごく魅力的なお誘いだったが、断った。
どうしてもダメなのかと熱烈に引き留められた。
日本に帰るつもりだと告げると、日本に支社があるので、日本支社製薬部門主任責任者にと新たな条件を出してきた。
悪くない条件だった。
僕は快諾し、7年過ごした留学先を後にして日本へ戻った。
日本に戻ってからしばらくして、本格的な製薬にGoサインが出て、製薬が全世界的に行われるようになった。
そして、ついに、一縷との結婚式の日になった。
見届け人は両家の両親だけの小さな式。
僕も一縷も大袈裟にやるのは嫌だった。
後日親しい人達に式で撮った写真をポストカードにして送る予定になっている。
その写真は式の後で撮る予定になっている。
全ての準備が整い、二人でバージンロードを歩く。
神父の前に到着して、誓いの言葉を交わす。
『立華一縷。汝は健やかなる時も病める時も東条蒼を夫とし、永遠なる時を過ごすと誓いますか?』
「誓います」
『東条蒼。汝は健やかなる時も病める時も立華一縷を夫とし、永遠なる時を過ごすと誓いますか?』
「誓います」
『それでは、指輪の交換を』
一縷からはプロポーズの時の指輪っぽい感じの素敵な指輪。
きっと一縷は僕に内緒で自分がデザインした指輪を作ったに違いない。
僕と同じ考えで作ったんだろうなぁ。
そう思いながら、一縷に薬指に指輪をはめてもらう。
次は僕が一縷に指輪をはめる。
一緒に買いに行った指輪と違うことにすぐ気づいたようだった。
一縷の耳元に口を寄せて、一縷にだけ聞こえるように囁く。
「あれからまた買いに行ったの。僕がデザインしたんだよ?世界にたった一つの指輪。これからの一縷の人生は僕のものだからね」
一縷は驚いたのか感動したのか、いきなり泣き始めた。
こんな一縷が見られるのは今だけなんだろうなぁ。
優しく拭いてあげた。
『続いて、番の儀式を』
後ろを向き、一縷に項を晒す。
「いち、来て」
「痛いと思うけど、ごめんな。…行くぞ」
――ガブッ
一縷の奴、思いっきり噛んだな…すごい痛い。
だけど、それを上回る幸福感が僕を満たしていく。
自然に涙が溢れた。
「ごめんね、嬉しすぎて涙出てきた。これからよろしくね、いち」
「こちらこそよろしくな、あお」
『最後に、誓いのキスを』
どちらからとも分からないが、二人の唇がゆっくりと重なった。
当初の予定通り、式が終わってからこれでもかというくらい写真を撮った。
今日一日すごく濃密な一日だったと思う。
これからは一縷と二人で歩んでいく道。
きっと険しいし、困難な道だと思う。
だけどこれまでの僕らはそれを乗り越えて今ここに立っている。
だからこれからの僕らだってできるはずなんだ。
ずっと一緒にいようね、一縷。
愛してるよ。
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