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第3話
「寂しそうにしてるからわざわざ声かけてやったのに、無視してんじゃねえよ」
「……悪い。聞こえなかった」
相手をするのも面倒で形だけの謝罪をすると、入江は余計に目尻をつり上げた。
「ふざけんな」
力まかせに机を殴った少年の背後から、ふいに誰かの呼ぶ声がする。その人物は廊下側の窓枠をわずかに乗り出し、手を振った。
「有伎、忘れ物」
彼は苦笑しながら、家の鍵と思しき物体を、顔の横でブラブラと揺らしてみせた。穏やかな表情からは知性と品位が滲み出ている。その顔をこの学校で知らない者はいない。
「兄貴」
入江はパッと身を翻し、見えない大海の向こうへと引き返した。柊馬につっかかっていたのが嘘のように、人好きのする笑みを浮かべて。
「俺も母さんも今日は遅いから、鍵を持ってないと家に入れないぞ」
「うん、さんきゅ」
鍵を預かった入江の横から、「会長おはようございます」とクラスメートたちが身を乗り出す。会長と呼ばれたその人は、にっこりと完璧な笑顔で挨拶を返した。
「おはようございます。じゃあ、俺は生徒会室に用があるから。有伎、あまり友達に突っかかるなよ」
先ほどのやりとりを見ていたのか、やんわり釘を差した兄は、颯爽と去って行った。
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