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第11話
眉を寄せながら掠れた声で囁くと、入江が顔を上げた。
「頼む、一回だけでいいから入江のこと抱かせて。入江に嫌われてるのはわかってる。もう一生近付かないって約束するから、入江とセックスしたい……」
追い詰められて、やるせない想いを吐露するバカな男を完全に演じきった自分に、柊馬は心の中で拍手を贈る。これで入江に突っぱねられれば、もう二度と絡まれずに済むだろうし、万が一断られなければ、もう少し遊ばせてもらうつもりだ。
(おまえはどう出る?)
数秒間の沈黙のあと、審判を待つ憐れなゲイの耳に、入江の小バカにした苦笑が届いた。
「は、必死かよ。しかも童貞って。なに、まじで嘘ついてたわけ?」
――ああ、ひっぱたいてやりたいくらいムカつく顔だ。
苛つきつつもコクリと頷く。
自分にベタ惚れでその上童貞とくれば、もう突っかかるのもバカらしくなるほど格下に見えるらしい。その証拠に、いつもはつり上がった眦をほんのりと下げ、心なしか優しささえ感じさせる表情をしている。もちろん歪んだ種類の優しさだろうが。
「さっきの暴言は照れ隠しだったわけか……。ふうん、兄貴みたいな男より、俺のがそそるんだ? そんなに俺が好き?」
「…………うん」
うぬぼれんな。おまえなんかこれっぽちも好きじゃねえよ。心で舌を出しながら、悟られぬようコクンと頷く。入江は瞳を細め、「ふぅん」とこぼしたきり沈黙し、突然しなだれかかるように柊馬の耳元で囁いた。
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