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第2話
会計をすませて出てゆく二人を見送ったものの気になって仕方がなかった。
大人同士だし、そもそも客が二人でどうなろうと亨には関係ない。それ以前に男同士だ。でももしあの男が自分と同じように先生をを見ていたとしたら?
そう思うとどうにも我慢できず、気付いたら口に出していた。
「父さん、ちょっと出ていい?」
今残っているのは見知った客ばかりだ。料理を運ぶ手伝いをしていた亨が抜けたところで大した問題ではない。カウンターの向こうの父親が答える前に、常連客が「彼女からの呼び出し? 行っておいで。」と送り出してくれた。
暖かい店内から出ると1月の冷めたい空気がぴりぴりと肌を刺してくる。半袖のまま出てきたけれど、三品の身を案じて使命感に燃える亨の身体は熱かった。
表に出て繁華街の方に向かって歩き、前方にさっきの男と歩いている三品を見つけた。二人の横にタクシーが止まり後部座席のドアが開く。乗り込もうと屈んだ拍子にバランスを崩した三品の身体を男が支えている。頷きながらお尻をシートにのせて無防備に微笑む横顔に向かって声をあげた。
「すいません、忘れ物です!すいません!」
何度目かの呼びかけにようやく二人がこちらを向いた。
忘れ物なんて嘘だった。持っているのは自分のスマホとボールペンしかない。違うといわれたらそれでおしまいだ。そう考えて一か八かの賭けに出た。
「これ、三品先生のじゃありませんか?」
さすがに表情が変わった。
「きみは?」
「中央高校の生徒です」
「ああ......うん?僕のボールペンを持ってきたくれたの?ありがとう。」
鷹揚に微笑んで手を伸ばし、明らかに自分のものでないペンを手に取った。触れた手は酔っているせいか温かく、何だかいい匂いもする。
三品が首を傾げてペンを弄っていると、タクシーのドアに手をついて待っている男が口を開いた。
「さっきの店の子?高校生で居酒屋ってさ……」
そうやって余計な詮索をされないように髪を上げて出来るだけ大人っぽく見せているのだが、生徒と名乗ったからには仕方ない。
「知り合いの店なんです。今日はどうしても人手が足りないからって言われて、手伝ってるだけです。」
それに、居酒屋じゃなくて小料理屋だ。そう言いたいのをぐっと我慢して男をまっすぐ見た。
「へぇ。じゃあ、早く戻った方がいいんじゃない?」
そういいながら三品を奥へと促して男は後部座席に座った。
閉まるドアの向こうで三品はぽやんと微笑みながら手を振って唇を動かしている。何を言っているの聞こえないまま、走り去るタクシーを亨は唇をかんで見送った。
運転手に駅に向かうように伝えた後、男は三品に身を寄せて小声で聞いた。
「ホテル?それとも俺の部屋に来る?」
Tシャツの下に盛り上がっていた三角筋と自分を心配そうに見つめる黒い瞳をうっとりと反芻していた三品は、手に持ったペンを指でくるくる回しながら「ホテル、でも泊まらないよ。」と半分上の空で答えた。
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