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第6話
お任せで出してもらった料理はどれも旨く、お陰で酒がすすむ。人好きのする雰囲気の三品に興味を持った常連客が飲み相手になるものだから、更にタチが悪い。カウンターの向こうで片づけを手伝っている亨が心配そうな視線をちらちら送って来るのに、三品は気付かないふりをして飲んでいた。
「先生、大丈夫ですか?」
「ううん、だあいじょうぶぅ。おとなれすから帰れますぅ。駅まであるいて、電車でちゃちゃっと行っちゃえばすぐなのですぅ。」
支払いを済ませて立ち上がってはいるが、限りなく信用ならない物言いに父親は肩を竦めた。
見送るために一緒に表通りに出た亨の隣で、三品は帰る気配もなく並んで立っていた。
冷たい夜風が繁華街を吹き抜けてゆく。
帰宅を促そうと動かした亨の左手に温かいものが触れた。三品の手の甲だった。どきっとした途端腕にふわりと寄りかかられた。さっきまで飲んでたお酒やいろんな食べ物の匂いが混ざっているのに、なぜか下品な感じはしなかった。
高くなった体温のせいか香水が微かに香り、熱を呼び起こす。放っておくとずるずると落ちそうな三品の身体を抱きしめる代わりに、腕を支えた。それでも三品の手が落ち着きなくぞもぞと動いている。嫌がっているのかと思い手を離すと、三品は亨を求めるように手をつなぎ、指を絡めていった。
じわ、と手のひらに汗が滲む。雑踏にいることも忘れて絡まれた指を握り返すと、亨の肩に頭を預けた三品の能天気な声がした。
「よし、もう一軒いくかぁ。」
「ダメですって、先生!もう帰らないと、また変な……」
変な男にお持ち帰りされますよ、と言いそうになり慌てて口をつぐんだ。
「変な、なにぃ?」
焦りを隠そうとする様子を察した三品が、腕にしがみつきながら体を大きく傾けて下から覗き込んできた。酔って潤んだ目がどんどん近づいて来る。鼻先が触れて三品の目が細められる。
「おこらないからぁ、正直に言ってみ?」
と言われても、少し動けば唇が触れそうな距離に動揺して亨はそれどころではない。距離を置こうと体をひねるけれど、三品は猫のように動きを躱して逃さなかった。
「むー、正直に言えない子はハウス!」
突然の言葉にきょとんとする亨に、ああ、と気づいて言い直す。
「じゃなくってぇ、僕をハウスさせてよ。ひとりじゃ帰れないよぉ。タクシー!」
そういうと、すぐに目の前に来たタクシーに亨を引きずり込んで自宅の住所を伝えた。
「先生、」
「学校の外で先生って言われるの、嫌いなんだよね。」
「じゃあ三品先輩、飲むといつもこんなんですか?」
「先輩いうな!しょうがない、紘一って呼んでいいよぉ。」
この酔っ払いめ。でもかわいい。
「紘一さん。飲み過ぎです。」
運転手が笑いをこらえている。亨はいたたまれなくなって頭を抱えようとしたが、繋がれた手は離してもらえなかった。
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