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冬のイルミネーションと、チラチラと降る冷たい雪。
大通りに出れば派手な装飾がされてそれこそデートスポットなのに俺達の待ち合わせは一本小道に入ったただのコンビニ。
安いマフラーを鼻まで上げてぼーっと雪を見上げていると、向こうからカツカツと靴の音が聞こえて大の大人が両手を広げて走ってくる。
「柚!!来てくれたんだねー!」
「っわ、抱きつくなよ馬鹿…!」
「あははっ、来てくれないと思ってたよ。嬉しいなぁ。」
榎本さんはそう言って嬉しそうに笑う。
俺がなにか考えるより先に、俺の手を握ると強く引いた。
「どこ行くんだ…?」
「まずは三時のおやつとしよう!カフェもディナーも予約済みだよ。それが終わったらゆずの家!」
「……いや待て、それドレスコードとかいるんじゃ…」
「私服の柚もとっても綺麗だから問題ないよ。」
「あるだろ、馬鹿…!」
榎本さんに手を引かれながら大通りの方へ向かっていく。
あれこれ考えるより先に、この人のペースに巻き込まれてしまう。
それに、俺にはただ単純に出来たばかりの友達に優しくしてくれているようにしか見えない。
「この紅茶のセットを一つ。柚は?」
「…俺も同じの。」
「それじゃ二つ、お願いね。」
榎本さんが注文するのを見ながら俺はぐるりと店内を見渡した。
静かで高級感のある店。
メニューに金額書いてないし、見たことない名前のケーキしかなかった。
…こんな店この辺りにあったのか。
「柚、どうかした?」
「いや…こんな店初めてきたから、なんか。いつも安いとこしかいかないし。」
「そっか。居心地悪かった…かな。それならすぐお店変えるよ?個室の方がいい?」
「ち、違う…っそういう事じゃなくて…」
店員を呼ぼうとする榎本さんの手を握って机に押さえつける。
なんでこの人こんなにせっかちなんだよ。
「じゃなくて…?」
「ちょっと、ワクワクしてるだけ。」
俺がそう言うと、榎本さんはパァッと満面の笑みを浮かべる。
それから俺が握っていた手を逆に握り返すと心底嬉しそうにその手を振った。
「そっかそっか、柚は今ワクワクしてるんだ!嬉しいなぁ…僕、期待を裏切らないように頑張るね。」
「アンタが何を頑張るんだよ…」
「んーケーキを美味しそうに食べる!」
「あぁ、それは大切だな。」
「芸能人もビックリの食レポもしちゃうよ。」
「それはウザそうだからいい。」
俺がつられて笑うと、榎本さんもまたクシャリと笑った。
あぁ、なんだ楽しい。
楽しいのが少し悔しい。
紅茶とケーキを食べおえ、店の外に出る。
のんびりしすぎたせいで外はもう夕暮れだ。
あちこちイルミネーションも付き始めてもうすぐに夜になるだろう。
榎本さんは少し歩く度にニコニコと俺を見てはスキップしそうな勢いで歩いている。
そんな時。
ふとすれ違ったカップルが俺たちを指さした。
「あれ、榎本望じゃね?」
その声に榎本さんの足が止まった。
「やっぱそうだって。…ってことは隣にいる男が、…」
「うわ、ゲイっての本当だったんだ。…引くわ。」
榎本さんの笑顔が消えていく。
なんか、言わないと。
このままじゃ 記事の中と同じだ。
「えの、も……」
「伊川さん。ありがとうございました、それじゃ僕はここで。」
「…は!?おい、…っ…」
まるで他人みたいな顔をする。
俺が掴もうと伸ばした手をすり抜け、人混みの向こうへ歩いていってしまう。
待てよ。
お前、そんなのでいいのかよ。
…今日誘ってくれたのも、そんなもんだったのかよ。
「…待てっていってんだろ、馬鹿…!」
人混みをかき分け、その人の手を握る。
榎本さんが驚いた顔で勢いよく振り向く。
泣きそうな真っ赤な目をして。
「俺の家、行けば誰も何も言わないだろ。…晩飯はいいから。」
「…でも、変な目で見られるよ。」
「勝手に言わせとけ。俺が居たくてあんたと居るんだよ、俺まで否定する気か?」
俺より背の高いその人を見上げる。
榎本さんは暫くぽかんとしていたけれど、すぐに泣き出しそうな笑顔になる。
それから、またクシャリと笑うと
「ありがとう柚、っ…!行こう、君と僕もいたいんだ!」
と皆に聞かせるかのようなでかい声で叫んだ。
馬鹿、それは声がでかすぎる。
と言おうとするけれどあまりに嬉しそうだから俺も釣られて
「あぁ。行くか。」
なんて笑ってしまう。
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