14 / 18
Ⅲ 光②
カッ
監獄に靴音が響いた。JSP幹部が背後の男に敬礼する。
襟に勲章がない部下になぜ……
「ご苦労。都辺 警視総監」
部下ではない。
声が煌めいた。漆黒の仮面が反射する。
「はっ」
靴音が遠ざかる。都辺と呼ばれた男はもう、俺に振り返りもせず独房を後にした。
「仮面があっては変装にもならないな」
JSPの制服に身を包んだ彼は紛れもない。
日本国 内閣総理大臣
「君の夫だ」
益城 省吾
「すまなかったね。聞いた通り、君の身の安全を優先した結果だ」
「どういう……」
「私には反対勢力が多い」
私や、私に近い者に危害を加えられる恐れがあった。
奥津 セイゴの息子である君も例外ではない。
(息子)
ズキン
胸が軋 む。
「ここなら安全だ。罪人を投獄する監獄なのだから、例え爆弾が落ちても吹き飛びはしないさ。
反対勢力の掃討は粗方ついた。君が眠っている間にね」
「じゃあ総理!」
ここから出られる。
そんな事情があったのなら、国家反逆罪も投獄の口実に過ぎない。総理との結婚も白紙だ。
だが。
「君は出さない」
仮面の声に心臓は凍てついた。
「不測の事態とはいえ、総理特措法を執行し、国家反逆罪の罪名で逮捕した。
日本は法治国家だ。法律は守られなければならない」
君を無罪にする事はできない。
漆黒の仮面が放つ光の名は、絶望
裁判において、国家反逆罪の有罪確定率は100%に極めて近い。
「だから」
黒い皮手袋の手が、俺の髪を撫でた。鉄格子から、静かに、優しく……
「私と結婚しよう」
仮面の声が撫でた。冷えた俺の頬を。
「私の精子で受精するんだ。そうすれば出産まで刑の執行に猶予が与えられる。その間に恩赦を出す」
鉄格子の向こう側、膝をつき、屈んで俺に目の高さを合わせた総理がいた。
「約束する。君の幸せを」
約束したんだ。
「君の父 奥津君に。君を幸せにすると」
総理がパパと……
パパが総理に……
俺を託した。
「私は本気だ。君の生涯を私に預けてくれないか」
ともだちにシェアしよう!