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Ⅲ 光②

カッ 監獄に靴音が響いた。JSP幹部が背後の男に敬礼する。 襟に勲章がない部下になぜ…… 「ご苦労。都辺(トベ)警視総監」 部下ではない。 声が煌めいた。漆黒の仮面が反射する。 「はっ」 靴音が遠ざかる。都辺と呼ばれた男はもう、俺に振り返りもせず独房を後にした。 「仮面があっては変装にもならないな」 JSPの制服に身を包んだ彼は紛れもない。 日本国 内閣総理大臣 「君の夫だ」 益城 省吾 「すまなかったね。聞いた通り、君の身の安全を優先した結果だ」 「どういう……」 「私には反対勢力が多い」 私や、私に近い者に危害を加えられる恐れがあった。 奥津 セイゴの息子である君も例外ではない。 (息子) ズキン 胸が(きし)む。 「ここなら安全だ。罪人を投獄する監獄なのだから、例え爆弾が落ちても吹き飛びはしないさ。 反対勢力の掃討は粗方ついた。君が眠っている間にね」 「じゃあ総理!」 ここから出られる。 そんな事情があったのなら、国家反逆罪も投獄の口実に過ぎない。総理との結婚も白紙だ。 だが。 「君は出さない」 仮面の声に心臓は凍てついた。 「不測の事態とはいえ、総理特措法を執行し、国家反逆罪の罪名で逮捕した。 日本は法治国家だ。法律は守られなければならない」 君を無罪にする事はできない。 漆黒の仮面が放つ光の名は、絶望 裁判において、国家反逆罪の有罪確定率は100%に極めて近い。 「だから」 黒い皮手袋の手が、俺の髪を撫でた。鉄格子から、静かに、優しく…… 「私と結婚しよう」 仮面の声が撫でた。冷えた俺の頬を。 「私の精子で受精するんだ。そうすれば出産まで刑の執行に猶予が与えられる。その間に恩赦を出す」 鉄格子の向こう側、膝をつき、屈んで俺に目の高さを合わせた総理がいた。 「約束する。君の幸せを」 約束したんだ。 「君の父 奥津君に。君を幸せにすると」 総理がパパと…… パパが総理に…… 俺を託した。 「私は本気だ。君の生涯を私に預けてくれないか」

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