15 / 18

Ⅲ 光③

きっと幸せになれる。 総理は日本を照らす熱き光 光に一番近い場所にいて、幸福でない訳がない。 気持ちを察して、真摯に向き合い、節々に至るまで細やかに一つ一つ選んで伝えてくれる総理の言葉は、誠意で溢れている。 今日初めて話したけれど、とても暖かい。仮面の下の総理の心は。 でも だけど だから! (恋愛じゃない) 俺は総理に恋してない。 うぅん、恋できないんだ。 俺はとっくに恋してた、から…… 恋は過去形で。 淡い初恋は実らないって決まってる。 恋心に気づいた瞬間、泡のように弾けて消えた。 触れてほしいのは、あの手で。 俺を抱っこしてくれた ぎゅっと手を繋いでくれた 甘やかしてくれもして 時に厳しく叱ってくれた 転んで怪我した膝小僧をさすってくれた 痛くなったお腹をさすってくれた 熱を出して眠る横ずっと寄り添ってくれた 頭ぽんぽんって、 俺の涙を拭いてくれた…… 頬を撫でてくれた、あなたの手 意地を張って、嫌いだと言って。 嫌いと言ったのは、この気持ちを認めるのが怖かったんだ。 幼くて、弱虫の俺は…… その手を振り払う事でしか、感情を伝えられなくて。 逃げていた。 なんで俺は握り返さなかったのだろう。 もういない。 もう届かない。 こんなにも優しく頬を撫でるこの手は、とてもあなたに似ているのに、別人の手 「握りなさい」 吐息が耳朶を掠めた。 「もう失いたくないのだろう」 同じ後悔をしたくないだろう。 「私がそばにいるよ」 振り払うのは簡単だ。 簡単であるがゆえにフラッシュバックする。 あなたの手を払った時に、あなたに付けた傷跡を。 握るのは怖くて。 ようやく気づいたこの気持ちに、嘘をつく事になりはしないだろうか。 あなた以外の人を、俺は選ぼうとしている。 あなたの本音も知らないまま。 (あなたの本音) 俺はまだ、あなたのほんとうの心に触れていない。 ここにいたら、もう会えない。 本当の気持ちに触れる機会は訪れない。あなたの心を知る事はもう、永遠に叶わなくなる。 ……手に手を重ねていた。 あなたじゃない革手袋の静けさに。 確かめる。 あなたに会って触れてやる。 (あなたの本音を) 引きずり出してやる。 そのために あなたじゃない、頬を撫でる手を俺は選ぶ。 ……「愛し抜くよ」 どうしてでも。 どうやってでも。 「夫だからね」 どんな手段を講じても。どんな君でも手に入るならば。 「夫は強欲なんだ。構わないさ」

ともだちにシェアしよう!