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act.01

20XX年4月5日午前11時 プーリア州レッチェ。  古びたホテル内に、アレッシオ達は足を踏み入れていた。 お世辞にも繁盛しているとは言い難い寂れた店内。人気がなく閑散としたその空間に、アレッシオの怒り交じりの声が響いた。 「はぁ? 何で相部屋なんだよ。ゆっくりシエスタ出来ないだろうが!!」 「しょうがないッスよ!! ドナテラさん、ちょっとしかお金くれなかったんスから……」  兄貴分であるアレッシオに怒鳴られ悄気るトマゾの手の中では、へろへろになった50ユーロ紙幣が一枚頼り無げに揺れていた。トマゾが茶封筒を嬉々として開けた結果出てきたものだった。どうやらそれが今回のファミリーからの支給金らしい。  このオンボロホテルの宿泊代はシングルで40ユーロ。シングルを2人分となると80ユーロ。どう考えても足りない。  ポケットをひっくり返したり、財布をひっくり返したりしたがそれでも出てきたのは2人合わせて20ユーロ。手持ちは合計で70ユーロ。あと10ユーロどうしたって足りなかった。因みにツインならば50ユーロだと、安っぽいチェックインカウンターの上に置かれた、黄ばんだ料金案内表に書いてあった。  アレッシオは唸りながら暫く悩んだあげく、決断した。 「……ツイン1部屋頼む」  結局ツイン1部屋を頼みチェックインを済ませたアレッシオは、これまた古びた雰囲気のある鍵をフロントのボーイから受け取ると寒くなってしまった懐具合に背を丸めつつ、トマゾを伴ってエレベーターに乗り込んだ。  そうして、部屋のある3階に辿り着き、2人は所々電球の切れ掛かった薄暗い廊下を部屋番号を見ながら進んでいく。 「……三階の307号室、307号室っと……」  カラカラとトマゾの引くキャリーバッグのキャスターが床を滑る音と、アレッシオの部屋を探す呟き声がやけに大きく聞こえた。 「あった……」  ピタリとアレッシオの足が止まり、トマゾもそれに習うように足を止める。アレッシオ達の目の前にはゴーストの1人や2人出てもおかしくなさそうな雰囲気漂う古びた木の扉が「さあ、開けてみろ!!」といわんばかりに鎮座していた。  錆びた取手は今にも取れそうだ。  ゴクリと唾液を呑み込むとアレッシオはゆっくりと取手に手をかけ、開く。ギィッ、と軋むような音がし、開いた扉の先は――ごく普通のツインルームだった。 「ったく、無駄に緊張した……」  ホッとしたのか、はたまた拍子抜けだったのか。アレッシオは、ズカズカと部屋に上がり込むなり、2つ置いてある簡素なベッドの内、窓際に近い方にボフッと音を立てダイブし陣取った。  古びた扉と違い部屋は洒落た内装こそないが、こざっぱりとしていて清潔感が漂っていた。  と、ギシッとベッドが軋む音がして、アレッシオは上体を起こす。そうして、背に当たるスプリングに、硬ぇな、とぼやくと、荷物を適当に放って同じ様に――それも何故かアレッシオが既にいる方のベッドに――転がろうとするトマゾの頭を叩いた。 「ちょい待った!! お前は、あっち」  アレッシオは、ぐいぐいとトマゾをベッドから押し出し、隣のベッドを指差す。 「只でさえツインで譲歩してやったんだ、大人しくしてろ。ゆっくりシエスタが出来ないだろ」 「そんなぁー。1人で寝るの寂しいッスよ」  兄貴分からベッドから押し出されたトマゾはというと、聞く者が同情したくなるような悲痛な声を上げた。 「お前なぁ……」  大の大人が何を言うか。アレッシオは呆れたように溜息を吐くと、トマゾに背を向ける。付き合うだけ時間の無駄だ。大体、添い寝がなければ寝付けないような小さな少年でもあるまいし、と心の中でトマゾへ悪態を吐く。 「アレッシオさーん!!」 「アレッシオさんってば!!」 「ねぇ、アレッシオさ――」  無視を続けるアレッシオだったが、3回目にして早くも限界だった。アレッシオの鍛えられた体が跳ねるようにしてベッドから起き上がった。 「う、うるせぇ!! あー、もう分かった!! 分かったから、騒ぐな。シエスタできねぇ!!」  プチリと堪忍袋が切れたアレッシオは、気付くとそう吼えていた。  その瞬間、トマゾがしめたとでもいわんばかりのしたり顔で笑う。  アレッシオは自身の失言に気が付き、しまった、と口を押さえるが、もう遅かった。 「流石アレッシオさんッス!!」  作戦勝ちしたトマゾがアレッシオに撤回されぬ内に素早く、そして嬉々としながらベッドの上に上がり込んできて、ベッドのスプリングが限界を訴えるように軋んだ。元々1人用のベッドに体格のいい野郎が2人も上がれば当然なのだろうが。  ベッドの面積の結果、背中合わせに眠る事となったアレッシオとトマゾ。アレッシオは本来ならばトマゾを蹴り落としても構わなかったのだが、承諾してしまった以上撤回するのはアレッシオのプライドが許さなかった。  ガキみたいに高い体温がアレッシオの背越しに伝わってくる。自分以外の体温とシトラスの香りに少し汗の混じったような匂い。少し動くだけでもギシギシとセックス時のようにスプリングがしなるのもあって、アレッシオは変な気分になりそうだった。 「……トマゾ、無駄に動くなよ。スプリングがうるせぇ 」  ついつい、可愛いげのない言葉がアレッシオの口をついて出る。 「シエスタ邪魔するなら外に放り出すからな」 「それは嫌ッス!!」  アレッシオの内心をどこか読んだような、艶っぽくそれでいて小悪魔めいたトマゾの声と共にギシリとベッドが軋んだ。 「何の真似だよ」  気付けばアレッシオはトマゾに覆い被さられていた。至近距離で熱を帯びた視線に貫かれる。 「シエスタの前にセックスはいかがッスか?」  まるでカフェにでも誘うような気安さで誘われる。トマゾの唇が弧を描き八重歯が顔を覗かせた。  獣に襲われているような気分だ。アレッシオはそう思いながら、いいぜ、と短く返し――そうして自分を見下ろすしなやかで若い肉体を持つ獣をたくましい腕で引き寄せた。 「んっ、ふ……ぁ…………」  艶やかに歪んだ唇同士が直ぐにぶつかり、湿った音を立てていく。ぶつかっては離れ、離れてはぶつかってを繰り返し啄むような軽いキスが次第に深く官能的なものへと変わっていった。 「ふぅ、っ……」  トマゾの舌が口内をまさぐり犯していく感覚にアレッシオは目を細め、満足気な溜め息を濡れた唇から溢す。気だるげに額にかかった髪を掻き上げ、無意識に互いの唾液で濡れ、淫らに光る唇を嘗めあげ口を開いた。 「トマゾ、お預けだ」 「えっ?!」  アレッシオに覆い被さったままのトマゾは間の抜けた声を上げた。 「……そ、そんなぁー」  情けない声を上げる彼をアレッシオは押し退けシャワールームへと向かう。 「俺も一緒に――」  なおも追い縋ろうとアレッシオの腕を掴むトマゾの唇に彼の長い指の腹が押し当てられた。  トンッと胸板同士がぶつかる距離。アレッシオは自分より4センチ程高いトマゾを見上げ、態とらしく妖艶に耳元で囁いた。 「準備が終わってないんだ。見られるのは恥ずかしいだろ」  耳朶に吹き込むように話す度にトマゾの体がピクリと揺れる。  アレッシオが横目でチラリと彼の顔を見ると、まだあどけなさが少々残る顔に判りやすい程赤みが差していた。  意図せず当たった彼の肢下に欲情の兆しが見え、アレッシオは膝頭をそこに擦り付ける。 「うぁ、っ……」  トマゾの唇から艶かしい声が洩れる。アレッシオが膝頭をソコに擦り付ければ擦り付けるほど、キツくなったジーンズの上から押さえ付けられる痛みと快楽でトマゾは表情を歪ませた。 「や、止めて下さ――ひっ んんッ!!」  トマゾが弱々しくアレッシオの胸を押し返す。すると、アレッシオは何事もなかったかのようにあっさりと離れてしまった。 「ちょッ、アレッシオさん!! これ放置ッスか!?」  そのままタオル片手にシャワールームへ消えようとするアレッシオの手をトマゾが掴まえる。窮屈になったジーンズの前を寛げたトマゾのそこは、既に腹に付くほどにそそり立っており。アレッシオの目の前に晒されピクン、ピクンと震えていた。  張り出した亀頭にアレッシオはゴクリと喉を鳴らす。すがるように自分を見詰めるトマゾの瞳にも嗜虐心を煽られた。 「〝待て〟も出来ないのか?」  加虐的な気持ちがアレッシオの中に込み上げ、自然唇が笑みの形を刻んでいた。アレッシオはそんな気持ちのままトマゾのペニスに触れた。 「それとも、変態君はスカトロが好みなのか?」  擽るように裏筋をなぞると、トマゾのペニスは大きくしなり震える。 「ふぅ……ア゛ァ……、イイッ」  切な気に眉を寄せるトマゾの唇から溢れるのは熱い吐息。コプリと鈴口から溢れ出した密が長い棹を伝い、それに触れたアレッシオの手も濡らしていく。 「仕方ないな、一回出させてやるから。今日はそれで我慢しろ」  そう言うなり、アレッシオは躊躇いなど一切無くトマゾのペニスを口一杯に頬張った。 「ん、ア゛ァッ――駄目、ッス!!」  急にアレッシオの生暖かい口内にペニスが包まれ、トマゾが声を上げ体を大きく震わせた。  トマゾの快感に甘く掠れた声に触発されたアレッシオが鈴口を抉るように舌先を動かすと、雄独特の青臭い臭いの体液が次々に零れてくる。決して美味いはずではない舌を刺すような苦味のあるソレ。  ぼんやりと頭の芯が痺れたように何も考えられなくなる。気付けばアレッシオは夢中でトマゾのペニスを味わっていた。 「んっ……、ハァッ……」  鼻にかかったような声が淫らに濡れたアレッシオの唇から溢れる。天に向かっていきり勃ったままのトマゾのペニスに唇を寄せながら、アレッシオは挑発的な視線を向けた。 「俺のはしてくれないのか?」 「……っ」  息を詰める音が微かに喉から洩れ出た後、顔を真っ赤にしたトマゾの視線がアレッシオのジーンズの前に注がれた。  元々身体の線にピッチリとあわせたようなジーンズではあったが、アレッシオの股関は明らかに昂りの兆しを見せ、ジーンズの柔らかくもない布地を押し上げていた。  トマゾの視線がアレッシオのジーンズの前に釘付けになり、喉仏が大きく上下する。視姦されているのはアレッシオの方なのに、その瞳には嗜虐的な色が浮かんでいた。  いつでも食らいついてきそうな熱を持ちながら、いつまでも手を出してこないトマゾに焦れたようにアレッシオは自らのジーンズの前をくつろげていく。 「なんだよ、変態君は俺のは触ってくれないわけ?」  勢いよく赤のボクサーパンツから顔を覗かせた赤みの強い亀頭。それを見せ付けるようにアレッシオは手で棹を扱きながら口を開いた。 「それとも、これもプレイの一貫?」 「っ……」  焼けつくようなトマゾの視線を感じ、アレッシオのペニスがピクリと跳ねた。鈴口から先走りが滲み、珠になって竿を伝い床へと落ちる。それと同時に、アレッシオの鼻先にある雄々しいトマゾの猛りからも、涙をこぼすように先走りがヌらつく軌跡を残し竿を伝い落ちていった。 「飼い主に似て、ここも堪え性がないんだな」  小さく笑いを溢すアレッシオは、触れてくれとばかりに震えるトマゾの猛りに再び唇を這わせた。トマゾの前に跪くようにして床に膝をつき、左手で自身の昂りを握り右手と唇でトマゾのモノに奉仕する。薄く開いた唇でキスを落とすと先程よりも濃い匂いと苦味を感じた。少しずつ。ゆっくりと味わうかのようにアレッシオはトマゾのペニスを咥内へと受け入れていく。  ぬるつき、熱い楔によって咥内の粘膜をなぶられる感覚は後孔にペニスを挿入された時の感覚に似ているようで違う。 ――そう、あれはもっと――。  ゾクリと震えが背を走り、アレッシオの自身を慰める手が亀頭を捏ねるように動いた。咥内のトマゾははち切れんばかりに育ち、アレッシオの咽奥を容赦なく叩いてくる。えずきそうになりながらもアレッシオはそれを咥内深くまで受け入れ、舌や頬の内側の粘膜で愛撫した。  生理的な涙で滲むアレッシオの視界に、堪えるように唇を噛み締めるトマゾの顔が映りこむ。恐らく、もう少しでイきそうなのだろう。  必死に耐えているのは、少しでも長くアレッシオと触れ合っていたいからなのだろうが――それが、アレッシオの加虐心を更に煽った。 「ほは、ひけっへ(ほら、イケって)」  トドメとばかりにアレッシオがジュルジュルと音を立てて咥内のペニスを舐め、しゃぶった。 「つ、ぅ――あ゛ぁぁあッ!!」  獣が咆哮を上げるような声を出しながらトマゾの体がビクビクと痙攣する。それと同時に、ドロリと濃く青臭い精液がアレッシオの咥内へと雪崩れ込んだ。 「ん、ぅ……ぐ…………」  喉に絡み付くそれは美味いモノでもないし、自身と同じ野郎のモノから出たものだと考えると出来ればあまり飲み込みたくないものだ。しかし、快楽のスイッチが入ったアレッシオは躊躇いなく喉を鳴らし、腹へと流し込んでいった。  肉厚な唇の端から呑みきれず溢れた白濁が、白く細く流れ落ち――床へと垂れる。 「っ、……エロ過ぎッスよ」  熱に浮かされたようなトマゾの声に、アレッシオは唇をベロリと嘗めあげ見上げた。イッたばかりで息を荒げるトマゾの肌が淡く色づいて見える。  ずくん、とアレッシオの手の中の自身が疼いた。 「ん、ふ……ぅ――っ」  鼻にかかったような声を溢しながら、アレッシオはトマゾの視線の中で自らを慰める。目を閉じても、肌に視線がチクチクと刺さるのを感じた。  頭上ではきっとトマゾがお預けをくらっている犬のように忠実に、あるいは愚鈍に。物欲しげな表情を浮かべ自分を見ているはずだ。  想像するだけで、面白さが込み上げアレッシオは笑った。 「くくっ」 「? どうしたッスか?」 「いや、何でも? それより……また勃ってんぞ」  目を開くと怪訝そうなトマゾの顔が飛び込んできた、と同時に先程イッたばかりだというのにもう首をもたげているトマゾのペニスが必然的に目に入る。  ――元気なことで。  この位の年頃は性欲が旺盛なのだろうか。アレッシオはそんなことを思いながら、芯を持ち始めたそれを上下の唇で優しく食んだ。 「ん、む――んっ」  柔らかい包皮を引っ張り、鼻先を露出している亀頭に擦り付けながら、にちゅ、にちゅ、と右手を上下に動かす。  濡れた音と男の荒い息遣いだけが響く空間はなんと淫靡で背徳的なのだろうか。  ――あぁ、もう……。  限界を悟ったアレッシオの視界が白と黒、交互に明滅を繰り返す。ブルリと太股が震え、トマゾのペニスに唇や鼻先を擦り付けたままアレッシオは自身の手の中で吐精した。  パクパクとまるで呼吸するかのように開閉する鈴口から白濁が噴き上がり、服を汚し床へ点々と落ちる。 「っふ、あ゛ぁぁ――」  尾を引くような快楽の余韻に浸っているアレッシオの頭上で獣が叫ぶような声があがり、顔を寄せていたトマゾのモノから白濁が噴き上がった。 「っ、く――」  避ける間もなく、アレッシオは顔に生臭いソレを浴びた。髪に、顔に、服に――まるでシャワーのようにかけられた生暖かい液体がドロリと頬を伝っていく。  雄臭い匂いに頭がくらくらする。アレッシオは自身の後ろが物欲しげに収縮するのを感じていた。  ――欲しい。  思わず、ゴクリと喉が鳴る。用意が出来ていないことが悔やまれて仕方がないが、アレッシオは汚物プレイなどは好きではなかった。そんなことを強要された日には、相手を殺してしまい兼ねない自信がある。  ――お預け、か。  アレッシオは名残惜し気に立ち上がると白濁の絡む髪を煩わしげに掻きあげた。 「お前がこんなに出すから、ドロドロになっちまった」  まだ息が整わないのか、肩を上下させるトマゾに見せ付けるようにアレッシオは唇の端にこびりついた精液を舐めとり笑った。 「す、すみませんッス……」  申し訳無さそうに謝るトマゾだが、その瞳にはまだ獣じみた欲情が顔を覗かせていた。

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