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act.03
「ッ、誰の命令でここに来たんだよ」
ベレッタを持つ手に汗をかきながら、アレッシオは問うた。
「んんー、可愛く小首傾げてお願いしてくれたらぁ、教えるかも」
「オッサンのおねだりポーズか。ハッ、勃起モンだなぁ」
銃口を突きつけられているというのに、彼らの軽口は止まないどころか、益々ヒートアップしている。やはり簡単に口を割るつもりはないらしい。
「早く口を割ってしまった方がイイと思うけどね。ウチの拷問はえげつないよ?」
穏やかな口調の中に凄みをきかせたアルの脅しに、ラーザリが大口を開けて笑う。
「そりゃあ、イイな。俺がヒンヒン啼いちまうくらいのキッツーイのをぶち込んでくれんのか?」
「ぶッ、ザーリャが、ヒンヒンって!!!!」
「言うかもしれねぇだろ? ヒンヒーン、ってよぉ」
「馬じゃないんだからサ。いや? 種馬だったら、あってるのかなぁ?」
「誰が種馬だ、このアショール!!」
口を開けば始まる頭の悪そうなやり取りに、アレッシオは内心頭を抱えたい気分だった。
銃口を向けた時から思っていたが、やはりこの2人には脅しは通用しないらしい。この手合いは非常に厄介だ。殺せば手がかりは無くなるし、例え捕らえることが出来たとしてもまずもって口を割ることはないだろう。
「コメディアン志望なら転職することをすすめるが――とりあえず、今は俺の質問に答えてもらおうか」
「オッサン、せっかちは嫌われるぜぇ? あー、あれだ。アンタ前戯も無しにいきなり突っ込むタイプだろ?」
「うわー、ヤダァー、サイテー。同じ男として引くレベルなんですけどォー」
「俺のことはどうでもいいんだよ。話逸らそうとすんな。いいか、もう一回聞くぞ? お前等のボスは誰だ?」
アレッシオは辛抱強く、もう一度尋ねた。そうして、ベレッタのトリガーを引き、2人の足元を狙って威嚇射撃をする。効果が無いと知っていても何もしないよりはまだマシだった。
が、やはり2人に動揺した様子もなく――
「ハッッ!! チョールト パビェリー !!」
ベッ、と舌を出したラーザリが、アレッシオ達に向かって中指を立てた。ロシア語の分からないアレッシオにも、ジェスチャーでその意味が分かってしまう。
「このッ、なめやがって!!」
ラーザリの挑発にエンツォが気色ばむ。神経質な彼らしくない乱暴な口調で、グロックのトリガーをそのまま引いてしまいそうな勢いですらあった。
「エンツォ、君は少し落ち着いた方がいい。ここで彼らを殺しても得することは1つもないよ。それこそ、彼らの思うツボさ」
「アンタらしくもねぇ。マフィアがテメェを馬鹿にされて怒るのも理解できるが、ここは冷静に行こうぜ」
アルとアレッシオが宥めるとエンツォは渋々であるが納得したようで「ッ、わかってますよ」と吐き捨てるようにそう言った。
「頭に血が昇りやすいのがいると大変だねぃ。ザーリャもすーぐカッカしちゃうから、その大変さ、よぉーくわかるよぉ」
アレッシオ達3人の中で崩すならばエンツォが容易いと判断したのだろう。シルヴィオがわざとエンツォの神経を逆撫でるような話題を振ってきたが、流石にエンツォもこの企みには気が付いていた。
「黙れ。もうその手には乗りませんから」
エンツォはピシャリと跳ね除けると、ピンク色の瞳できつくシルヴィオを睨み付ける。
「ありゃ、ざんねーん。ま、でも――、お迎え、丁度来たみたいだからいっか」
ニッ、とシルヴィオが笑む。彼が髪を掻き上げたその耳元には、インカムが付けられていた。そのインカムの示す意味に気が付く前に、それまで大人しくしていたシルヴィオとラーザリが動いた。
シルヴィオがカーディガンの懐から取り出したそれ―スタングレネード ―のピンが抜かれ、アレッシオ達の方へと放られる。
「ッ!!」
「ま、ぶし――」
防ぐ間すら与えられず、部屋を埋め尽くす閃光と耳が痛くなるほどの音に襲われ、アレッシオとエンツォはシルヴィオ達の姿を見失う。
その隙に乗じて、ラーザリとシルヴィオがアレッシオ達の方へと駆け出し――
「く、ハハハッ!! ダ スヴィダーニャ 、間抜け共!!」
「じゃあねぃー、楽しかったよーん」
擦れ違い様に聞える2人分の嘲笑。
「くそッ!! 待ちやがれ!!!!」
アレッシオは白く濁った視界のまま声のした方向へと手を伸ばした。が、スタングレネードでやられた耳では正確な位置まで掴みきれなかったらしく、服にすら掠ることなく虚しく宙を掻いただけだった。
「ッ、逃がさないよ」
唯一スタングレネードが炸裂する前に目を瞑ることで目暗ましを回避していたアルが、コルトガバメントを2人へと向け、発砲する。
しかし、アルも聴覚までは防ぎようが無かったのか。彼が放った45口径は狙いがずれてラーザリの足元擦れ擦れを削っただけで、2人を足止めすることは出来ない。
そのままシルヴィオとラーザリはケラケラと笑い声を響かせながら、アルの視界の中――すでに穴の空いた大きなガラス窓の残りをぶち破って――その向こう側へと飛び出した。
「しまった、海か!!」
アルのその声にぼやける視界のままアレッシオは窓の近くへと移動する。じんわりと戻ってきた視界の中見えたのは、大きなマットレスを積んだ船がシルヴィオとラーザリを回収していくところだった。
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