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第6話
次々振られる仕事をこなしながら、一日中パソコンに向かう。
今までと違う仕事内容に多少焦りながらもキーを叩く。
仕事中の清藤は厳しい。昼に一緒に食事を摂った人間かと思うほど静かな罵声が聞こえてくる。
容赦しないその仕事ぶりは完璧で、愚痴を言いたくても最も過ぎて言い返す者はいない。それほどまでに完璧な仕事をこなす清藤はこのフロア全員の仕事を把握して指示を出す。
勿論、真田にも容赦はしない。
「真田、さっき振った資料まだか?あと30分で仕上げろ。営業が戻ってくる」
ほぼ仕上がっている資料を最終チェックし清藤の席へと急ぐ。
「お待たせしました」
そう言い終わる前に資料は清藤の手の中でチェックが始まる。
「ありがとう。仕事が早いことは次の仕事もスムーズにいく。頭で段取りを組め。いかに効率よくが勝負だから」
視界の端でフロアのドアが開き、部長と第二営業部の営業マンが入ってきたのが見えた。資料を手に立ち上がった清藤は真田の意識がそこに向った頃には、その場所に辿り着いていた。
清藤は足が早かった。歓迎会ランチに向かう時もかなりの速さで歩いていた。
食事もそうだ。真田が半分食べ終わった位で食べ終わっていた。
四つの営業部を取り仕切る営業企画部の人数は少ない。如何に効率よく営業マンが仕事をやり易くするか、清藤が割り振り円滑にしていると言っても過言ではない。
自分も営業畑居たからわかる。打ち合わせは資料八割で会議以外はそれを見れば客先の細かな要望も円滑に進んだ。
(凄い人なんだよな…蓮根嫌いだけど)
自分のデスクに戻り、清藤の凄さを思い知らされ、開いたメールの的確な指示にまた思い知る。
「今日、清藤課長は機嫌がいいですね。メールが優しいです」
是澤が小声で耳打ちするが、どこに優しさがあるのか比べるものがないのでわからなかった。
「機嫌悪いとどうなるんです?」
「最後に『宜しく』がつかないです。もうその日はピリピリ空気でフロアが凍ってます」
肩を竦め、両腕を摩る仕草に、正しく凍るのだと苦笑した。
「真田さん効果かな…清藤課長が機嫌がいい理由。待ってらしたんですよ、真田さんが来られるの。出来る営業が来るって…」
出来るも何も入社二年目のペーペーがどれ程のことができると言うんだろう。確かに契約は小口ながら取ってきてはいたが会社に貢献できる程出来た営業マンではない。
「はは、期待に応えないといけませんね。未熟者なんでご指導宜しくお願いします」
本来なら出社後直ぐに挨拶しなければいけない事を就業間際になって是澤に伝えた。
「その謙虚さですかね…清藤課長が気に入られているのって…昼休憩誘われてるのって初めて見ましたもん。普段はランチさえ摂ってないんじゃないかってほどここにいらっしゃいますから…」
気に入るも何も、今日初めて話したのだが。それでも少しは自分がここにきた事で清藤の機嫌がいいと聞いて悪い気はしない。それにあの早食いだからこそ食事を摂っていないなんて思われている。
清藤の秘密めいた事を自分だけが知っている優越感に笑みが漏れる。
「期待されてるんですかね、プレッシャー半端ないですけど…」
「もうすぐ定時ですが…僕は一時間程残業して帰りますが、どうです?歓迎会、二人ですが…飲みに行きませんか?」
是澤の手がエアぐい呑を持って飲む仕草をした。今日振られた仕事はあと一件で終わる。是澤に頷き「行きましょう」と応え、画面に向かった。
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