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第7話

「ほんと、綺麗な顔して冷血人間なんっすよね」 砕けた物言いになってきたのは酒が回り始めたからだろう。 「役職者だし背負ってるのもがありますもんね」 「いや結構、入った時かららしいっすよ。あの人T大出てるらしいっすからストイック生活してきたんじゃないっすかね…それであの性格ができたと…」 自分なんてスポーツ馬鹿ですから次元か違いますけどね…苦笑いで頭を掻いた。 学歴社会の日本で会社に入ればこうやって肩書きとして付いて回る。それだけの努力をしたという実績なんだろうけど真田はどうにもそんな感覚が好きではなかった。 今はどれだけ仕事で実績を上げていくかだ。学歴のフラグを立てて歩いているわけではない。 「私もそんないい大学出てないんで…」 そう話を合わせたが、恥じることはないと思っている。こんな風に相手の話を疑心で捉えるようになってしまったのはいつからなんだろうと肩を落とした。 裏切られるのが怖くて人を信用しなくなった。女だってそうだ。今目の前にいる恋人は明日になれば誰かに心を奪われているかもしれない。 確証なんて人の心には得ることができない。信じて痛い目を見るのは自分なんだ… ジョッキニ杯でかなり酔っている是澤は酒が弱いと見た。これ以上は進めない代わりに営業企画部の内情をそれとなく細かく聞き出した。 会社から十分の社員寮に住む是澤を送り届け、終電には間に合うだろうと駅へと急いだ。 改札を潜り、ホームでの待ち時間の間にスマホを取り出した。メールは親からの一件のみ。 今は頻繁に送る相手はいないのだから当たり前だと溜息を吐く。 ポケットに仕舞い、無意識に反対側のホームに目をやるとそこだけがまるでスポットライトが当たっているかのように映し出す姿があった。 清藤さん… その隣には清藤の上司、二宮部長がいる。なんだか和気藹々とした雰囲気からどこかで飲んでいたのかもしれないと推測した。 そして清藤の肩に腕を回した部長が何か耳元でいい、頬を染め部長を見上げる清藤の視線が熱く見つめ返したように見えた。 (嘘だろ…) その回した腕はパンと肩を叩き、ここまで聞こえそうな部長の豪快な笑みが見える。 なんのことない上司と部下の戯れが真田の動悸を勢いよく早め、ズキンと痛む軋みを与えた。 滑り込んだ電車でその光景は遮断された。激しい動悸と痛む胸を押さえ電車に乗り込んだ。 (なんだ…これ…) 痛みを和らげようと前屈みで心臓を押さえる。それでも脳内で繰り返されるさっきの光景に収まる気配がない。 (あんな目で…見つめるって…) 動悸とは裏腹に脳内は清藤のあの目線の理由を考えようとする。その度に胸が軋みを増す。 清藤のその見つめ返した理由を探す。 (男同士でさ、上司と部下なんだし…部長も笑ってたし…) 清藤の視線の理由はなんなのかばかりが気になり、自分のこの胸の痛みは一体なんなのかさえ考える余裕がない真田は終電のガランとした車内でひたすら胸を押さえて蹲った。

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